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AI時代だからこそ、血の通う医療を届けたい 〜効率化の先にある、医師にしかできない「割に合わない時間」の価値〜

  • 和田仁
  • 10月30日
  • 読了時間: 5分

先日、ある若手の放射線腫瘍医がこんなことを心配していました。

「今後、生成AIが発展して治療計画の自動化などが進歩したら、僕たち放射線腫瘍医の立場ってやばくないですか?」


たしかに、AIの進歩はすごいスピードです。画像から腫瘍を自動で認識し、数分で最適な治療計画を作り上げる。そんな時代がもう目の前にあります。私たちが何時間もかけてやってきた仕事が、AIに置き換わっていく。その不安、私もよく分かります。


でも、私は彼にこう返答しました。

「治療計画だけしたい方々にはやばいかもですが、放射線腫瘍医にとっては良いことだと思います。」

 


1. AIが奪うのは「仕事」ではなく「時間の制約」


これまで私たち医師は、膨大な時間を治療計画や書類作成などに使ってきました。


以下、医師が時間を奪われていた従来業務の一例です。

午前中に外来予約診察患者さんがたくさんいるなか、当日の飛び入り新患も入り、お昼休みもろくにとれないまま、その日までに準備しなければならない放射線治療計画を、夕方の会議の時間に間に合うように限られた時間で作成。

外来患者さんと話せるのは、わずか5分、10分。

「もっと話を聞きたい」

「もっと寄り添いたい」

そう思っても、時間が足りないことがしばしば。それが長年のもどかしさでした。

 

でもAIが自動で治療計画を立ててくれるようになったら、どうなるでしょうか?

その時間を、患者さんのために使えるようになるんです。


つまり、AIが奪うのは「仕事」ではなく、むしろ「時間の制約」なんです。

AIは、私たちに本来の医療――患者さんと向き合う時間――を取り戻してくれる存在なのです。

 


2. 医師にしかできないことは何か


では、AIが進歩しても、私たち医師にしかできないことって、何でしょうか。

治療計画を立てることでしょうか。 線量計算をすることでしょうか。

違います。


医師にしかできないことは

・患者さんの不安に寄り添うこと

・言葉にならない訴えを察知すること

・その人らしい人生を一緒に考えること

これこそが、AIには代われない、医師にしかできない本当の仕事なのです。

 

私が長年、放射線治療の現場で感じてきたことがあります。

患者さんが本当に求めているのは、技術的に完璧な治療だけではありません。

「先生、この治療で本当に痛みは楽になりますか?」

「副作用が怖いんです」

「家族にどう説明したらいいでしょうか」

そんな不安を、じっくり聞いてほしい。 一緒に悩んでほしい。

「大丈夫ですよ」と言ってほしい。

それが、患者さんの本当の願いだと思います。

 

ある患者さんが、こう言ってくれたことがあります。

「先生が30分も時間をかけて話を聞いてくれて、それだけで身体が少し楽になった気がします」


これが、AIには絶対できない、人としての医師の本当の仕事なんだ、と確信しています。こうした「割に合わない時間」こそが、実は医師の本当の価値を生み出しているのです。 


では、今の医療制度はこれをどう評価しているのでしょうか?


 

3. 診療報酬制度が評価しない「価値」


最近、『割に合わないことをやりなさい』という新書を読みました。生成AI時代、効率やコストパフォーマンス(コスパ)、タイムパフォーマンス(タイパ)が重視される今だからこそ、「次の価値」を見つける思考法が必要だというサブタイトルです。

この本の問題提起は、まさに今の医療の現場が抱える課題に直結しています。

 

今の診療報酬制度が評価しないこと(「割に合わない時間」)

・30分以上かけて患者さんの話をしっかり聞く → カルテには「問診」の一行のみ

・ご家族と一緒に治療方針を悩む→ 報酬に反映されない

・夜中に患者さんから電話がきて相談に乗る → 報酬に反映されない(実質的な「時間外労働」)

これらは全て、診療報酬には反映されない「割に合わない時間」から生まれるものです。


でも、これこそが、医療の本質なんじゃないかと、私は思うんです。


 

4. AI時代だからこそ生まれる「時間」


AI の発達によって、私たち医師に「時間」が生まれます。

その時間を、私たちは何に使うべきでしょうか。


AI時代の医師の時間活用:

・患者さんと話す

・ご家族の相談に乗る

・多職種での連携をする

診療報酬にはならないけれど、心を通わせる時間。AI時代こそ、そこにこそ最も重要な価値があると私は考えます。


技術による効率化が進むほど、効率的でない「人間らしさ」の価値が際立ちます。技術的なことはAIに任せて、私たち医師は、人間にしかできない「割に合わないこと」に、もっともっと時間をかけられるようになる。

それが、AI時代の医療の進む方向だと、私は信じています。


 

5. 技術は「人のため」にある


これまでのシリーズでお話ししてきた、最先端の放射線治療技術があります。

第1回〜第3回の技術と「時間」の関係:

・AIが計画を作ってくれるのは、私たちが患者さんと話す時間を得るため。

・装置が小型化されるのは、患者さんのもとへ「会いに行く医療」も可能にするため。

・移動式治療が実現するのは、地域の患者さんの通院負担を減らすため。

AI、ロボット、FLASH、移動式治療――技術は、「割に合わないけれど大切なこと」を支えるためにあるのです。

 


6.最後に


冒頭の若手医師の話に戻ります。

AIは、私たちの仕事を奪うのではありません。AIは、私たちを「本当の医師の仕事」に戻してくれるんです。


これからの医療に必要なのは、効率だけではありません。

・AIが得意な「効率化」

・人間にしかできない「割に合わない温かさ」

この両方が融合したとき、本当の意味での「患者さん中心」の医療が実現すると信じています。

 

医療の三つの原則

1.技術は人のためにある。

2.効率化は、温かさを取り戻すためにある。

3.そして医療は、希望を届けるためにある。


その希望は、きっと「割に合わない時間」の中から生まれるのだと思います。

 


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