東北が世界の医療を変える!?世界最先端技術が集結する「奇跡の地」
- 和田仁
- 10月4日
- 読了時間: 4分
放射線治療は日々進歩を続けています。私自身も、「これから放射線治療はどう進化するんだろう?」とワクワクしています。
そこで今回から3回シリーズで、私が日々の診療や研究のなかで思い描いている放射線治療の未来の姿を、わかりやすくお伝えします。第1回は、なぜ東北が注目されているのか?
キャンサーコンパスクリニックのある仙台市から広がる東北地方には、実は世界トップクラスの最先端装置や研究施設が驚くほど集まっています。まさに「世界最高峰の技術が集まる場所」と言っても過言ではありません。
今回は、東北各地の最先端施設をご紹介しながら、こうした技術が放射線治療の未来にどうつながっていくのかをお伝えしたいと思います。
南東北がん陽子線治療センター&BNCT研究センター(福島県)
まず、福島県にある南東北がん陽子線治療センターをご紹介します。2008年に開設されたこの施設は、日本でも有数の陽子線治療施設です。私も10年ほど前からこちらで診療に携わらせていただいており、多くの患者さんの治療に関わってきました。
陽子線治療は、一般の放射線治療よりも格段に精密な、がん細胞だけをピンポイントで狙い撃ちできる優れた治療法です。例えるなら、弓矢の名人が的の中心だけを正確に射抜くように、陽子線は体の奥にあるがんだけを狙い、周りの大切な臓器や組織をほとんど傷つけません。特に小児がん治療では、お子さんの成長への影響を最小限に抑えられる、極めて重要な選択肢です。
さらに南東北は、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)という、まるで『がん細胞専用の小型爆弾』のような新しい治療法もあります。
がん細胞だけに特別な薬剤を取り込ませる
そこに中性子線を照射する
がん細胞の内部から破壊する
このように、がんを細胞レベルで内側から狙い撃ちするという、革新的な発想の治療法です。
以前、光免疫とBNCT:類似点多い「第5のがん治療法」というタイトルでクリニックのブログを書いたことがあります。こちらもご覧いただけたら嬉しいです。
山形大学医学部東日本重粒子線センター(山形県)
山形大学医学部附属病院には、国内で2台目の回転ガントリー型重粒子線治療装置があります。2021年に稼働開始したまさに世界最先端の装置です。
重粒子線治療も陽子線治療と同じくがんをピンポイントで狙えますが、さらに強力なパワーを持つことが特徴です。
より強い治療効果を発揮
身体の深い部分のがんにも高い効果
従来の放射線では治療困難な症例にも対応可能
まさに放射線治療の切り札と言っても過言ではありません。
そして、この装置が病院に併設されているのは全国でも珍しい画期的な配置です。患者さんのアクセス性や負担に最大限配慮した山形大学の先進的な取り組みの証です。
私もこの導入期から関わらせていただき、現在も現地で研修に参加させていただいています。世界最先端の技術に触れるたびに、東北の医療技術の高さを実感しています。
ナノテラス - 「未来の新薬」を生む世界最高性能の放射光施設(宮城県)
宮城県で最も注目すべきは、仙台市青葉山にあるナノテラスです。2024年4月に本格稼働した、世界最高性能の放射光施設です。

放射光とは、太陽光の10億倍以上という、「超」強力な光です。この光を使うと、物質の構造を原子レベルで細かく観察できます。例えるなら、「超強力な虫眼鏡」で、ミクロの世界を覗き込み、がん細胞の設計図を見ているような技術です。
「放射光施設が治療と関係あるの?」と疑問に思われるかもしれません。
実は大いに関係があります:
新薬開発におけるがん細胞構造の解析
薬剤の作用機序の詳細な研究
より効果的な治療法の開発基盤
ナノテラスでの技術開発や発見が、将来の革新的治療法や効果的な薬剤開発につながっていくでしょう。
ILC(国際リニアコライダー)への期待(岩手県)
岩手県には、ILC(国際リニアコライダー)の誘致が期待されています。全長20キロメートル以上の世界最大級実験施設で、宇宙の謎解明を目的としています。
過去の技術革新を振り返ると:
インターネット → 研究施設から生まれた
MRI → 全く別の目的で開発
GPS → 軍事技術から民生転用
これらと同様に、ILCで開発される最先端技術も、10年後、20年後にはさらなる小型化や、患者さんにやさしい形に進化した治療装置として実用化される可能性があります。
東北地方の世界最高峰技術の集結がもたらす未来
以上をまとめると、東北には以下の装置が集まっています:
福島・山形:世界トップクラスの粒子線治療装置
宮城:世界最高性能の研究施設
岩手:世界最大の実験施設(計画中)
私たちが今、歴史の転換点にいることは間違いありません。東日本大震災の困難を乗り越え、力強く復興してきた東北だからこそ、技術の力で世界に希望を発信し、未来の医療を切り拓いていくという使命を担っていると確信しています。
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