こころの防災と、Beingの安心
- 和田仁
- 22 分前
- 読了時間: 4分
先日、防災フォーラム2026 IN多賀城にお招きいただき、今回のブログでお伝えする『こころの防災』というテーマの講演をしました。
震災という自然災害と、がんという病の告知。
一見まったく別の出来事に見えるこの二つが、こころが受ける衝撃という点で驚くほど同じ構造を持っていること。そして、そこから立ち直るための知恵もまた共通していること。この話題に、会場の皆様から大きな反響をいただきました。
前回のブログでは、最先端の科学を味方につけながら自然治癒力を引き出す『こころの衣替え』についてお伝えしました。
今回は、人生の予期せぬ危機を生き抜くための『こころの防災』というテーマをお届けします。
がん告知と大震災、その本質的な共通点
私は東日本大震災の直後、宮城県立がんセンターに赴任しました。
多くのがん患者さんと向き合う中で実感したのは、
災害によって住み慣れた居場所を突然失う衝撃と、
医師からがんを告知された時の衝撃は、本質的に同じだということです。
昨日まで当たり前に続いていた人生の物語が、ある日突然、鋭利な刃物で断ち切られる。
そんな時、私たちのこころは次の3つの大きな揺さぶりに襲われます。
現実的ショック:生活や生活基盤の崩壊
関係的ショック:周囲からの孤立、孤独
存在的ショック:「なぜ自分が」という生きる意味の喪失
だからこそ、目に見える建物の防災だけでなく、私たちのこころにも折れないインフラ=『こころの防災』が必要なのです。
1%の日常が、こころを支える
阪神淡路大震災の際、こころのケアに尽力された精神科医・中井久夫先生は、
「日常の維持が、最大のケアである」という深い知恵を遺されました。
がんを告げられたときも、大きな災害に遭ったときも、心が激しく動揺するのは人間として正常な反応です。100%いつも通りでなくていい。
朝起きて、濡らしたタオルで顔を拭く。
決まった時間に薬を淡々と飲む。
庭の草木に水をあげる。
そんな、たった1%でもいいから『日常のいつもの習慣』を維持することが、脳に「自分はまだ大丈夫だ」という安心感のアンカー(錨)を下ろしてくれます。
受援力という、こころの杖
もう一つ大切なのが、受援力(じゅえんりょく)
「助けて」と周りにSOSを出せる力です。
前回ご紹介したBMJの大規模研究が示すように、孤独や孤立は心理的苦痛を深め、がんの予後にも直接影響を及ぼします。
哲学者バートランド・ラッセルは、人が幸福に生きるための根本的な条件として、
人との温かいつながりを挙げました。
災害時も、病の時も、この真理は変わりません。
顔の見える温かい関係を普段から作っておくこと自体が、最良の医療インフラであり、いざという時の『こころの杖』になるのです。
SBNRと、死生観という静かな力
私たちは、特定の宗教を信仰していなくても、美しい自然を愛で、先祖に感謝し、心の中で亡き人と対話する精神性を持っています。
最近ではこれを、SBNR(スピリチュアル・バット・ノット・リリジャス)と呼びます。
在宅医療の先駆者である故・岡部健先生の研究では、人生の旅立ちの時に、先に逝った愛する人が枕元に迎えに来てくれる『お迎え現象』を、実に87.1%もの方が体験し、それによって深く安らいだという報告があります。
この事実は、私に大切なことを教えてくれます。
人間は、いのちの終わりに向き合う時でさえ、孤独ではないのかもしれない。
そして、その静かな確信こそが、今を生きる力になりうるのだということを。
DoingからBeingへ
最後に、皆様にお伝えしたいことがあります。
『Doing(何ができるか)』から『Being(ただそこに存在すること)』への価値観のシフトです。
私たちは普段、「仕事ができる」「役に立つ」というDoingで自分の価値を測りがちです。
しかし、病気になって何かの役割をこなせなくなっても、五体満足でなくなっても、あなたはそこに存在しているだけで100%尊い。
それは、私の大好きな庭の山野草たちが、誰に見せるためでもなく、手入れされるわけでもなく、ただそこに咲いているだけで美しいのと、まったく同じことだと思うのです。
私たちは、治療を受けるためだけに生きているのではありません。
人生という限られた時間の中で、『幸せを経験するため』に生きているのです。
8月22日、母校での記念講演へ
この『こころの防災 〜いのちの断絶を生き抜く〜』というテーマを、2026年8月22日、私の母校・沼津東高校の香陵同窓会総会(沼津リバーサイドホテル)で、
『こころの防災 〜がん診療と東日本大震災の経験から贈る、いのちの処方箋〜』
と題して、記念講演としてお話しいたします。
36年の臨床経験の中で積み重ねてきた、がん医療と震災支援、そして三大幸福論が交差するこの医療哲学を、母校の皆様に全力でお届けしてまいります。




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