最先端科学の盾と「こころの衣替え」
- 和田仁
- 7月16日
- 読了時間: 3分
現代のがん医療は、凄まじいスピードで進化を続けています。
ロボット手術の精緻化、AI医療機器の高精度化、そして抗がん剤や遺伝子検査による超個別化医療の進歩は、その代表的な例といえるでしょう。
ちなみに、私が拠点とするここ東北・南東北エリアは、重粒子線、陽子線、そしてホウ素中子捕捉療法(BNCT)といった最先端の放射線治療が集まる、いわば放射線治療の聖地とも呼べる場所です。
正しい情報という羅針盤さえあれば、私たちは世界最先端の科学を、驚くほど身近な選択肢として手にできる時代を生きています。
医療の現場に存在する影
しかし、その一方で、医療の現場には見過ごせない影も存在します。
どれほど装置や技術が進化し、多くのがんが治せる時代になっても、「なぜ自分がこんな目に遭うのか」「死が怖い」患者さんが抱えるこうした深い孤独や、置き去りにされがちな『こころ』の問題は、大病院のシステム、とりわけ診療時間の制約だけでは解決できません。
こころのケアは、立派な医療行為
ここで、見逃せない医学データをひとつご紹介します。
イギリスの権威ある医学雑誌(BMJ)に掲載された、16万人以上を対象とした大規模な研究では、強い心理的苦痛…つまり心の不安定さや不安を抱えている方は、そうでない方に比べて、がんによる死亡リスクが32%上昇したと報告されています。
さらに近年の研究でも、「孤独感」ががんの進行や生存率に影響を及ぼす可能性を示す報告が相次いでいます。
こうした知見が示唆するのは、こころのケアが単なる気休めや精神論ではなく、からだの予後にも関わりうる、医療の重要な一部だということです。
科学の盾があってこその、こころの平安
ただし、ここで科学を軽視してはいけません。
2018年の『JAMA Oncology』誌に掲載された論文では、標準治療を拒否し、効果の不透明な民間療法のみに頼った場合、死亡リスクが2倍に高まったことが示されています。
自分自身の自然治癒力を信じることは、素晴らしい姿勢です。
けれど、まずは科学の盾である「標準治療」をしっかりと味方につける。
そのうえで、こころの平安を保ち、自分自身が本来持つ力を最大限に引き出していく。
『科学の盾』と『こころの平安』
この両輪を最適化していくことこそが、私の提唱する『医療軍師の生存戦略』です。
「こころの衣替え」という考え方
日本における心身医学の開拓者、故・池見酉次郎医師は、「がんが自然に消えていくような奇跡的な経過の背景には、生き方や価値観が根本から変わる実存的転換が必要である」と指摘しました。
最先端の科学を賢く味方につけながら、最後は自分自身のこころで命を取り巻く環境を整え、眠っている力を引き出していく。
私はこれを「こころの衣替え」と呼んでいます。
笑うから、幸福になれる
人生の道しるべとなる三大幸福論の一人、フランスの哲学者アランは、こんな言葉を遺しました。
「幸せだから笑うのではない。笑うから、幸福になれるのだ」
置かれた環境がどうであれ、自分の意志で上機嫌を選ぶことはできます。
たとえ、身体の一部にがんという病があったとしても、みなさんのこころまでがんという病に侵されたわけではないのです。
次回は、こころの力をさらに一歩進め、人生の危機を乗り越える『こころの防災』について、お話しします。




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