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皮膚が赤くジクジクした巨大頸部リンパ節再発へ再照射(動注陽子線)、祝5年経過!


 私が5年前から主治医として診療担当させていただいたNさんの経過概略を、以下にお示しいたします。 「私のガン治療がお役に立てるなら幸せです!必要なら何時でもお声がけ下さい!」(原文のまま)と、ご本人の快諾も先日拝受いたしました。


「現病歴」

2015.10 中咽頭がん(cT2N2bM0, P16不明)で都内某大学病院にて手術(原発断端陽性

     本人が術後照射を希望されず、経過観察に

2016.12‐2017.1 局所再発あり、全頸部IMRT70㏉/35回&CDDP同時併用

2018.11 左頸部腫瘤自覚。CTなどで再発確認。主治医が抗がん剤を提案も、本人が拒否

2019.4−6 私が初診担当。巨大頸部腫瘍に対し局所陽子線治療&動注化学療法同時併用


 3年以上前のことではありますが頸部にすでに70Gyの根治照射をがっちり施行されており、再照射は危険と判断され化学療法(での延命治療)となるのが、今の診療ガイドラインに即した標準的な考え方です。再照射は過剰照射となり、周囲の正常組織が耐えられる閾値を超えるため「危険だからしません」という主治医判断がしばしばなされます。これは放射線腫瘍医に相談することなく決定されてしまう場合も少なくありません。経験的に東北地方ではかなり多いだろうと推察します。

 しかし、Nさんの皮膚表面の腫瘍は握り拳をゆうに超える大きさ。皮膚は赤くジクジクして「花が咲いた」状態で、点滴の抗がん剤だけで治すことはほぼ不可能と言える状態でした。ひだりの画像が治療前のMRIですが、大きな腫瘍がひだり頸動脈まで達していて、あと少し腫瘍が大きくなって動脈壁を食い破ると即死につながってしまうような状態でした(黄色丸)。


 Nさんは知人である有名歯科医師(元教授)さんからのご紹介で、首都圏からお一人で私の外来を受診されました。初診時にご本人の自覚がどの程度あるか伺い知れない印象でしたが、もし陽子線治療を行うなら早急に始めないといけない状態でした。また、治療中に、いや治療終了後もしばらくは、いつ時限爆弾が爆発するか(動脈壁が破けるか)わかりませんでした。

 そして初診時に「治療を受けて金を支払うかは自分で決める」と私に宣言されました。しかし、生命に関わる危険な状態でしたので、治療に同意はされたものの、ご家族との連絡や連携も喫緊に必要でした。実はご家族に連絡が取れて病状説明ができたのは、治療開始数週してからのことでした。その間、正直言って私は内心ヒヤヒヤの状態でした。


 具体的な根治照射の内容ですが、赤くなった皮膚は再照射やむなしとしても、陽子線の特徴を活かして深部の咽頭粘膜や脳脊髄神経、奥歯などは再照射をほぼ避けることができました。ただ、あまりに巨大な腫瘍だったので陽子線単独治療での局所制御は難しいことが予測されたので、「標準治療にはなっていないものの施設内での治療成績が良好な」抗がん剤の超選択的動注化学療法を同時に行うことを提案させていただきました。

 抗がん剤に関しては「点滴は希望しないけれど効果がありそうな動注なら許容」との本人ご希望でしたので、腫瘍が急に縮小した場合の動脈破裂リスクも懸念はされたものの局所制御(≒完治)を優先する方針で同意されました。


 治療開始後の経過ですが、運良くと書いて良いかわかりませんが、巨大な腫瘍は数週後に徐々に縮小していきました。縮小の反応を見る限り、p16は陰性だったと推察されました。みぎ画像が治療後4年以上経過した昨年のMRIです。巨大な腫瘍は消失しています。周囲のリンパ節転移とか肺や肝臓などへの遠隔転移がいずれ出現する恐れは少なからずありましたが、CTなどで定期的に確認しても新たな遠隔転移が出現することもありませんでした。

 治療後の副作用として同側の耳下腺は萎縮してしまいましたが、頸動脈は機能を保持しています。また、患側皮膚の色素沈着や線維化は残ってしまいましたが、大きな皮膚トラブルにはなっていないようです。懸念された頸動脈破裂はもとより、再照射に伴う皮膚潰瘍や筋肉壊死なども外来での経過観察で確認されることなく、触診上も画像上も腫瘍は消えてなくなりました。


 70歳を超えた今も実業家としていろいろなお仕事をなさっている方で、ほぼ毎日お仕事で飛び回っておられるそうです。最近になって地元で飲食店まで開業されたとのこと。そのバイタリティには感服いたします。今度そのノウハウを、私に少し教えてくださいませ。

 実は5年を経過した先日の定期診察から仙台の当くりにっくで、定期フォローをさせていただくことになりました。Nさん、金曜以外は忙しくて受診の予定が立てられないそうで、金曜だと私も仙台での診察しかできないという理由からでした。わざわざ足を運んでくださったので、くりにっく叢書もいくつかご紹介しながら「がんにも心臓にも仕事のストレスは好ましくないですよ」とアドバイスさせていただきました。


 無事に5年経過、一般的には完治で「診察卒業」と主治医に言われることも多々ある区切りの時期となります。先日も「卒業」という選択肢をご提案させていただきましたが、ご本人から「仙台に顔を見せに参ります」とのお言葉をいただき、引き続き年に1−2回フォローさせていただくことになりました。


 おそらく5年前に標準治療の化学療法をしていたら、今はなかったことでしょう。診療ガイドラインには記載されていない治療方針であることを、お互いに承知した上での選択肢でした。


 あらためて、おめでとうございます、Nさん!



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