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資格と信頼のあいだ ― 曖昧さを怖れず、誠実に伝える【言葉と信頼シリーズ 第1回】

  • 和田仁
  • 11月14日
  • 読了時間: 5分

医療や健康の分野における『言葉の力』と『信頼の本質』について、今回から計4回にわたって考えていきます。


私がこのテーマを取り上げようと思ったのは、日々の診療の中で、患者さんから「◯△という資格を持っている人に、こう言われたのですが…」という相談を受けることが時々あるからです。


資格や肩書きは、確かに一つの目安になります。しかし、それだけで信頼が保証されるわけではありません。今回は、その資格と信頼のあいだにある、見えにくいけれど大切なものについて、お伝えします。


増え続ける『専門家』の言葉


最近、健康サロンやリラクゼーション施設、心理やメンタルケアを掲げるサービスのホームページなどを見ると、こんな表現をよく目にします。


・「◯△資格を持っています」

・「医学や心理学を学びました」

・「からだとこころの専門家です」


もちろん、安くないお金を支払って資格を取得することは立派なことですし、真摯に学ばれた方も多くいらっしゃいます。私自身、そうした方々の努力を否定するつもりは全くありません。


しかし、「資格があるから、からだに良いことがわかる」「こころに良いことを知っている」という表現には、どこか危うい響きがあるのです。



「勉強した」「知っている」の曖昧さ


「勉強した」「知っている」という言葉は、実はとても曖昧です。


関連する本を数冊読んだだけでも、「勉強した」と言えてしまいます。インターネットで見聞きした知識も、「知っている」と表現できなくはありません。


・本を数冊読んだだけでも「勉強した」と言えてしまう

・SNSやネットで見聞きした知識でも「知っている」と言えてしまう

・大学で数年間学んだ人も、週末のセミナーで学んだ人も同じ言葉を使う


では、その違いはどこにあるのでしょうか。

それは、その言葉がどこまで根拠を伴っているのか。その誠実を伝えられるかどうかです。


医療者ほど言葉が慎重になる理由


医療の世界では、「効く」「治る」と断言できることは、実はそれほど多くありません。

なぜなら、人間の身体も心も、極めて複雑で個別性が高いからです。同じ病気でも、同じ治療でも、反応は人それぞれです。


命に関わるからこそ、医療者は慎重に言葉を選びます。だから、医療者ほど表現が曖昧になるのです。


・「場合によっては」

・「効果には個人差があります」

・「必ずとは言えませんが」


こうした前置きは、逃げているわけではありません。むしろ、誠実の証です。


法律が定める「効く」「治る」の境界線


日本の法律では、「効く」「治る」といった効果を明確に言えるのは、 医師、または治療行為が法律で認められている国家資格の専門職 (例:柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師・きゅう師など) に限られています。

これは、単なる規制ではありません。命と健康を守るための重要な線引き、安全装置なのです。


それにもかかわらず、グレーゾーンで断定的に効果を謳う表現が、世の中には少なくありません。


・「これで◯◯が治ります」

・「100%効果があります」

・「医者も驚いた奇跡の◯◯」


こうした断定的な表現は、法律的にも倫理的にも問題があります。


それでも人はなぜ「断定的な言葉」に惹かれるのか


人間心理の不思議な側面ですが、人は曖昧な言葉よりも断定的な言葉のほうを信じやすい傾向があります。


「効果には個人差があります」と言われるより、「これで必ず良くなります」と言い切られる方が、安心感を覚えます。はっきり言い切る人を見て、「この人は自信がある」「信頼できそう」と感じてしまうのです。


しかし、それは時に、思考を止める危険な安心でもあります。

「この人を信じれば大丈夫」と思った瞬間、私たちは考えることをやめてしまいがちです。


信じることと、考えることの両立


医療や健康の世界で一番大切なのは、信じることと、考えることの両立です。


信頼できる専門家を見つけることは大切です。でも、その人の言葉をすべて鵜呑みにするのではなく、自分でも考え、疑問があれば質問する。

そういう姿勢が必要なのです。


逆に、専門家の側も、患者さんや利用者の方に、考える余地を残す責任があります。

「これが絶対です」と言うのではなく、「こういう選択肢があります」「こういうリスクもあります」と、丁寧に説明する。


そうして初めて、本当の意味での信頼関係が生まれるのだと思います。


誠実な曖昧さという勇気


・「わからないこともあります」 

・「必ずとは言えません」 

・「ケースによります」


こうした言葉を口にするには、勇気が要ります。

なぜなら、曖昧な言葉は、相手を不安にさせるかもしれないからです。「この人、頼りないな」と思われるかもしれません。


でも、それでも正直に、誠実に伝える。

それこそが、本当の専門家の証だと私は思います。


信頼は、強い言葉で一瞬にして得られるものではありません。

時間をかけて、誠実さの積み重ねによって育まれるものです。



おわりに


誠実さは、わかりやすさよりも伝わりにくいものです。

「これで治ります」という言葉のほうが、はるかにシンプルで魅力的に聞こえます。


けれど、時間をかけて信頼に変わるのは、誠実さのほうです。

私たち医療者は、資格や肩書きに甘えることなく、一つひとつの言葉に責任を持ち、誠実に伝え続けたいと思います。


そして、情報を受け取る側のみなさんには、誠実な曖昧さを怖れる必要はない、むしろ、あなたを尊重している証である、ということを知っていてほしいのです。



次回予告シリーズ第2回ブログは、『パワーワードの魔力 ― 言葉に操られる時代にどう生きるか』というタイトルです。奇跡、絶対、治癒力といった、こころを揺さぶる言葉の力と、その裏側にあるものについて考えます。



【言葉と信頼シリーズ】

第1回:資格と信頼のあいだ ― 曖昧さを怖れず、誠実に伝える(本記事) 

第2回:パワーワードの魔力 ― 言葉に操られる時代にどう生きるか(次回) 

第3回:情報の海で溺れないために ― 調べる力と判断する力(予定) 

第4回:誠実さを届ける側の責任 ― 医療者・支援者としての私たちの役割(予定)


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