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ハルンカップで叱られた

和田仁

 ハルンカップってごぞんじですか?


 ハルンとはドイツ語Harnのことで尿(おしっこ)を意味します。つまり尿検査の時に一時的におしっこを貯める容器のこと。普通の使用法はそうです。百均ショップなどではおもしろ擬似検尿コップも販売されているようですが…


 話は少しそれますが、甲状腺分化がんの再発危険度が高い、もしくはすでに手術困難な転移を発症してしまった患者さんに対し、甲状腺を全摘出した後に放射性同位元素のヨウ素-131を投与してベータ線やガンマ線による「内部被曝」でがんを治療するという方法があります。放射線治療の一つで、放射性ヨウ素内用療法または放射性ヨード内用療法といいます。

 海藻など特に海産物に多く含まれるヨウ素という物質は、腸から体内に吸収された後に甲状腺ホルモンの原料として血中から甲状腺にとりこまれます。実は甲状腺分化がんも正常の甲状腺と同じようにヨウ素を細胞内に取り込む性質があります。その特徴を利用して、放射線の一種であるベータ線とかガンマ線が出るヨウ素-131カプセル剤を内服して甲状腺がんの放射線治療を行うのです。ヨウ素-131取り込みがある(これは必須条件)甲状腺がん細胞ならば、転移にもスポット爆撃のように放射線治療ができるので、狙い撃ちがん治療として大変有効です。


 ヨウ素-131が体内に入ると甲状腺分化がんになりやすいのに(福島原発で有名に…)、そのがんを治療するにも大量のヨウ素-131を使うなんて、なにか不思議な気がしませんか?


 がん治療に必要な大量のヨウ素-131を内服すると、しばらくの間は体内に滞留します。そこで他人への不必要な被曝を避けるために、患者さんを内服直前から放射線管理区域という特別室に閉じ込める(監禁する)ことになります。体内から放射線が出るだけでなく、便や唾液や汗などからも大量のヨウ素-131が排出されるために必要な法的措置です。

 ヨウ素-131の半減期はおよそ6日であり、また尿を主として体外へ速やかに排出されるので、多くの場合は数日程度の監禁で済みます…とは医者目線で書いたものの、およそ6〜12ヶ月ごとに繰り返し治療を受けられる患者さんなどからは、治療に関連するいろいろな身体や生活の制限があり「個室監禁がつらくて受けたくない」とお話される方もいました。

 

 大量のヨウ素-131を内服直後の数日間は、使用した食事用容器などにも患者さんの体液(唾液や汗など)が付着するため、使い捨て(紙)容器を使用するなどして、放射性物質汚染に対するしかるべき廃棄処理が必要となってきます。着衣なども残留放射線の量が減るまで、しばらくの間管理区域内にお預かりしたりします。



 で、ここからが本題となります。


 以前勤務した病院で経験したことなのですが、ある時ヨウ素-131カプセル剤内服直後の患者さんが「水を飲みたい」とナースコールしてきました。たまたまディスポ容器(紙コップ)がなかったようで、新人の看護師さんがその代用としてついうっかりハルンカップに水を入れて、患者さんのところに持って行ってしまったんですね...。ハルンカップを出されたことに患者さんは激怒され、担当医だった私と病棟看護師長と二人で平謝りしに行きました。


 信じられない方も多々いらっしゃると思いますが、病棟などで「普通の」コップがない時、お茶とかインスタントコーヒーとかをハルンカップに入れて飲んだ経験がある医療者は、私を含めて少なくありません。最近はあまりないかな?実際に未使用ならもちろん清潔ですし、意識しなければほとんど普通の紙コップです。すぐ近くにあるし、ストックもあるからこれが結構便利なんですよね。だからあの新人看護師さんもいつもの感覚で(?)使用してしまったのでしょう。

 新聞報道などでいろいろな記事が出たこともあり最近は見聞きしなくなりましたが、昔は病院内で御用納めなどの宴会をすることがたまにありました。その時にはビールや日本酒、ジュースを入れて飲むなどということは(少なくとも私の知っている所では)日常茶飯事でした。患者さんと病院内で杯を酌み交わすなんてこともあった良き(?)時代でした。


 胃のX線造影検査の時に使うバリウムコップを使ったこともあります。まあ、こっちは元々「飲むための」コップだから、ハルンカップと比べれば違和感はいささか少ないのかもしれませんが…。


 画像は「未使用の清潔な」ハルンカップにビールを注いでみた状態です。ご覧の方で不快な気分を感じる方がいらっしゃったら申し訳ございません。もちろん美味しいビールに変わりはありません。

 仮にですが「しびん」にビールを注いだらピッチャーのようにもなりえます。噂によるとそんなピッチャーを客に出す居酒屋もあるらしいです(笑)。どう感じるかは別として、清潔ならきっと十分使えるでしょう。私はさすがにしびんをピッチャー代わりにしたことはありませんが...。


 とはいえ、一般の方からしたらハルンカップもしびんもきっと五十歩百歩でしょう。 


 「医療界の常識、社会の非常識」と聞いたことがあります。私を含めて医療者ってたぶん、やっぱり変ですよね?

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