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「緩和照射できません」失笑の放射線治療の会に失望

 

 本日夕方、某地方の放射線治療懇話会にオンラインで参加しました。特別企画が「多職種で考える緩和的放射線治療」という興味深いテーマだったのと、特別講演をされる先生のお話を聴講したかったこともありまして。

 土曜午後の診療直後でしたが、(時間通りに業務終了したので)無事に聴講できました。その昔、遠路はるばる現地参加したことがある研究会なのですが、便利な世の中になりました。


 実は主催された先生へ事前に、『「特別企画」で是非がんによる苦痛症状で治療台に横になることすらできない方に、各施設でどのような対応をされるのか意見交換してほしい』という私からのシチュエーション希望を出していました。ありがたいことに、検討会に出された仮想2症例のうち、1例が「胸椎転移による脊髄麻痺を来たし、がんが増大し咳が出て仰向けになれない進行肺がん症例」に対して各施設でどのように緩和的放射線治療を行っているか?という、私が出した希望に近い放射線治療の体位保持に難渋する設定でした。

 がん患者さんが安全で安楽な放射線治療を続けるため、各施設でいろいろな工夫をしながら診療を行い、関連企業もいろいろな補助装置や器具を世に出されています。ですので、私が放射線腫瘍医になりたての頃と比べて、よっぽどでない限り、なんとか放射線治療を継続できる時代にはなってきました。


 ただ、今回の仮想症例は私のイメージより優しい(甘い)設定だったので、各施設とも案の定「痛み止めを増やせば大丈夫」とか「工夫して横向きにすれば良い」とか「治療回数を少なくする」といった、あえて書くと月並みな返答が続きました。


 そこで、もっと厳しい以下の状況で各施設がどう対応されるかという、私が聞きたかった(討論してほしかった)以下『』の質問をさせていただきました。本当は、私自身の話し言葉で直接伝えたかったのですが、オンラインのチャットで限られた文字数での質問となりました。

 『オピオイド(医療麻薬の鎮痛剤)をしっかり使用しても、放射線治療計画CTそのものが撮像できず、さらには放射線治療寝台に側臥位でも横になれない方に対し、ご参加の先生方は、やむなく無理にでも拷問のように仰臥位か側臥位にして治療を行っていますでしょうか?あるいは照射適応外でしょうか?』


 放射線治療の現場にいたことがないとわかりにくい内容ですが、私なりの一つの選択肢も含ませた『20世紀のようなCTシミュレータ無しでおよその位置でいきなり体表に印をつけ、ざっくり10x10cmくらいの矩形で「車椅子か立位のまま」単回照射したいと思うケースがまれにあります。現在の放射線治療計画装置はCTを転送しないと放射線治療そのものができないものもあり、最近は治療計画用X線シミュレータもなくなり(汎用のX線透視装置で代用はできますが)、単回照射でも横に寝なければならない患者さんはとても苦痛です。またそのような場合は鎮静での照射も難しいです。』とも付記しました。


 骨転移などの痛みであれば、痛み止めを調整したり神経ブロックなど麻酔科の先生に別治療をお願いする選択肢はあると思います。しかし、今回のケースは、がん緊急の代表である「がんの骨転移による脊髄圧迫(Malignant Spinal Cord Compression:MSCC)」でした。なにもしなければ、下半身の完全麻痺が一生残ってしまうのです。手術はできない場合が大半で、抗がん剤では(即効性が期待できるがん種以外は)麻痺が進行してしまうので、多くの症例で緊急放射線治療がほぼ唯一の治療です。

 できるだけ苦痛なく、なんとか早く治療をご提案したい、ご提供すべき症例なのです。


 しかし、壇上の全ての先生のご回答は「うちの施設ではできません」「放射線治療の適応外です」という簡単なものでした。


 会場内からは、強引に側臥位にすればいいと発言するベテラン医師もいました。「強引」の程度は主観ですから、実際の現場において本質的な点でどうとは言いにくい部分です。ただ、なんと言いますか、言い方が「しょうがないから、やっちゃえ」みたいな。

 CTシミュレータでの治療計画しか見たことがない若い先生方には、私の書いた『20世紀にしていたようなシミュレータ無しでおよその位置でいきなり体表に印をつけ、ざっくり10x10cmくらいの矩形で…』のイメージが湧かないのかもしれません。ただ、当時を知る同世代前後のご年配の先生方もけっこういらっしゃいました。

 

 さらには、会場から失笑のような何人もの笑い声が聞こえました。「変な質問だよね〜」的な、「無理な質問だよね〜」的な。被害妄想かもしれませんが、私はそう感じ取りました。オンラインだから、どなたが笑ったのかは私にはわかりませんし、誰か特定する気もありませんが、びっくりしました。とても悲しかったです。


 最前線でお仕事をされている放射線腫瘍医がたくさん集まる研究会で、どうせ姑息照射だから的な世界を、再び垣間見てしまった気がしました。限られた時間内の企画で、さらに予定外の長い質問だから書きながら軽くあしらわれるかもの懸念はありましたが、あっさり全施設で「できません」「しません」とは…。

 その昔、私が書いたブログ「姑息照射って表現、消えてほしいな~をふと思い出しました。


 今の装置は、融通さというか、臨機応変さというか、各メーカーの放射線治療システムは総じて患者ファーストではない部分があります。治療精度を求めて、患者さんにいろいろな身体的な物理的な負担をかけています。もちろん、治療精度は大事です。そして、20世紀よりは数多くの面で改善してきた歴史、見聞きしてきた私なりに承知はしているつもりです。


 でも、私が若かりし頃に経験したことがある「ざっくり10x10cmくらいの矩形」で、治療そのものが苦痛を伴う治療寝台には上がらず「車椅子か立位のまま」、いきなり単回照射も状況によってはできると思います。治療システムとして可能な施設なら。


 がん緊急照射で脊髄麻痺が止められるかもしれないのに、誤差数ミリとか線量分布で130%のホットがどうだからとか、期待される効果からしたら臨床的にはほとんど問題になりません。もちろん総線量が少ない緩和照射なら、の話です。有害事象が起きてもいいと言っているわけでもありません、緩和照射だからこそ。

 【多くの論文でもあるように4Gy1回だけだって効く方はいるんだし、安静が保持しにくい方にミリ単位を求めたって長い治療時間にセンチ単位で動いちゃうんだから、「精度のこだわり」は「医療者の自己満足」が主の世界です。全体像を俯瞰して、どう選択するか。場合によっては(ご同意上での)勇気と覚悟の超ざっくり治療もあり、そういう議論をしてほしかった。8Gyでホットスポット130%がどうしても気になるなら7Gy(か6.5Gy?)にすりゃいいんだし…でも、そういう話じゃない「この方をどうしたら?」という患者ファーストのお話が聞きたかった。でも、(追加要望だったから)時間はなかったかな…残念:9月3日追記】


 臨床的な総合判断での話です。



 救いだったのは、質疑応答の最後に司会から意見を振られた特別講演の講師先生が「麻酔科の先生と相談し、手術するような全身麻酔をかけて照射したことはあります。そこまでするケースは少ないだろうけれど」といったコメントをくださったことでした。たしかにそれは、(究極的な?)一つの選択肢としてありうると思います。特別講演の先生、とても嬉しい最後のコメントでした!

 この企画で、私は単に「やります」「できません」という短絡的な回答を求めたわけではありません。私の文章質問が悪かった(うまく伝わらなかった)かもしれないのは反省材料ではありますが、そんな回答ならわざわざ研究会で検討する必要なんてありません。なにか、工夫はできないか?が聞きたかったのですし、そこが大事なのです。


 さらに、その後の特別講演は、たくさんの最先端論文報告を含む、非常にハイクオリティな濃い内容でした。むちゃくちゃ勉強になりました。

 さすが、サイトー先生!ありがとうございました。



 エゴが前面に出たような、愚痴をこぼすようなブログ投稿で申し訳ございません。今回は書かずにいられませんでした。そんな気分で一気に書いたブログなので、誤字脱字や修正部分があるかもしれません。

   

 個人的に、気分は悲喜こもごものオンライン研究会でした。




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