【まずは知る③】世界の臨死体験研究と、日本のホスピスケア精神
- 和田仁
- 2025年12月30日
- 読了時間: 3分
これまで、キュブラー・ロス医師による問題提起、そして岡部健医師による日本の臨床現場での「お迎え現象」のデータと震災の証言を通して、終末期の現場で起きている「不思議な事実」を見てきました。
最終回となる今回は、この事実をどう捉え、私たちの日々のケアや生き方にどう活かすか。 二つの異なる分野の第一人者、レイモンド・ムーディ医師(世界的な研究者)と、柏木哲夫医師(日本のホスピスの父)の視点から総括します。
【世界】臨死体験を「科学のテーブル」に乗せたムーディ医師

一人目は、レイモンド・ムーディ医師(Raymond Moody, M.D., Ph.D.)です。 彼は精神科医であると同時に哲学博士でもあり、バージニア大学医学部などで教鞭をとった、この分野の世界的権威です。
彼の最大の功績は、1975年の著書『かいまみた死後の世界 (Life After Life)』において、それまで「個人的な幻覚」や「オカルト」として片付けられていた現象を、「臨死体験(Near-Death Experience)」と名付け、体系化したことにあります。
日本でも、加山雄三さん、ビートたけしさん、ガクトさんなど著名人でご自身の臨死体験を語られたことがある人は多いです。ただ、ムーディ先生は、臨死状態から生還した150人以上の証言を分析し、そこには人種や宗教を超えた共通のパターンがあることを発見しました。
彼の研究は、「脳の機能停止下で、意識が鮮明に活動している」という事実を客観的なパターンとして提示し、医学や心理学の議論のテーブルに乗せたという点で、極めて重要です。これは、死を「無」ではなく「意識の変容プロセス」として捉え直す、科学的な第一歩となりました。
2. 【日本】事実を「ケア」に昇華させた柏木哲夫医師
二人目は、日本のホスピス・緩和ケアのパイオニア、柏木哲夫医師です。 柏木先生は、1973年に日本初のホスピス病棟設立に関わり、現在は淀川キリスト教病院の名誉院長を務める、精神科医であり日本の終末期医療の精神的支柱とも言える存在です。
柏木先生の貢献は、ムーディ医師や岡部医師が示した「不思議な事実」を、臨床現場でどう受け止めるかという日本のホスピスケアの「精神(こころ)」を確立した点にあると考えます。
柏木先生は、患者さんが抱える「魂の痛み(スピリチュアルペイン)」にどう向き合うかを問い続けました。
その核心は、「患者が語る不思議な現象や、死への問いを、決して否定したり軽んじたりしてはならない」ということです。
まとめ:知識は「優しさ」になる
患者さんが「お迎えが来た」と語ったり、「死んだらどうなるのか」と尋ねてきたとき、医療者が「そんなことは科学的に証明できない」と突き放してしまえば、患者さんは孤独になります。
しかし、私たちがムーディ医師や岡部医師の研究を知り、「そういう事実の報告がある」という視点を持っていたらどうでしょうか。
「そういう不思議な体験をされる方は、実はたくさんいらっしゃるんですよ」 そう答えることで、医療者自身が患者さんの体験に共鳴し、同じ思いを持つことができます。この共鳴こそが、真の傾聴を生み、患者さんの深い安らぎにつながる――これこそが、柏木先生が説くホスピスケアの精神だと私は思うのです。
このシリーズを通して私たちが伝えたかったこと。 それは、「死後の世界を信じましょう」ということではありません。
そうではなく、「多くの専門医師が、死の向こう側にある『意識の事実』を報告し、検証し、それをケアに役立てようとしている」という事実を知っていただきたかったのです。
この事実を知ることは、私たちが抱える死への根源的な恐怖を和らげます。
そして何より、ご自身や大切な方が人生の最期を迎える時、その言葉や体験をまるごと受け止める「優しさ」と「余裕」を与えてくれるはずです。
キャンサーコンパスクリニックは、これからも「どう生きるか」という問いに、科学的な視点とあたたかいこころで向き合い続けます。




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