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「常勤」は良質の放射線治療を担保するか?

 

 最近、私の大学時代の同級生(首都圏の某病院の副院長)から、「がん拠点病院を継続したいのだけれど、常勤の放射線治療医が退職して困っている。誰かいませんか?」という連絡がありました。

 大学時代に同じ釜の飯を食った同級生からの切実な相談なので、私の存じ上げる何名かの首都圏にある有名な大学教授の先生方に「常勤可能なお医者さん、どなたかいらっしゃいませんか?」といちおうお伺いをたててみました。


 が、しかし。というか、やっぱりなのですが、

・「すみません。うちの大学放射線科自体が深刻な医師不足であり、この手の相談に関して到底お役に立てそうにありません。」

・「関東はどこも人手不足なところが多く難しいかもしれません」

・「私どものように日々医者を探している施設へのお誘いとは相当先方も大変なんでしょうね。うちはご提示の条件よりさらに悪く、上の立場の者がいる、給料はもっと悪い、学生教育、雑務多数・・・こちらこそ、いい人いたらお教え下さい。関連病院でIMRTのためにエース級を出し、うちは火の車です。」

・「常勤医の派遣は今すぐは難しい」

 といったお返事ばかりが帰ってきました。これらご施設がどこかは、お問い合わせいただいても一切お答えできませんので、あしからず。


 首都圏の大学病院ですら、こんな状態。ましてや(私もおよそ知る)地方の大学病院事情なんて...



 地域がん医療の中核を担うがん拠点病院。拠点と標榜するにあたり、指定要件という施設基準が厚生労働省から出されています。以下のpdfをご覧いただければわかりますが、たくさんの基準が列記されています。

 放射線治療部門については、「専従(就業時間の少なくとも8割以上、 当該診療に従事していること)の放射線治療に携わる専門的な知識及び技能を有する『常勤』の医師を1人以上配置すること。」という施設基準が定められてます。専従の常勤医、週5日勤務とすると週4日は同じ放射線治療医が在籍する必要があるということです。実はこれが各がん拠点病院、そして大学病院所属を含めた多くの放射線治療医をずっと苦しめています。かれこれ20年くらいも前、つまり21世紀になってからもずっと...


 ちなみに、高度放射線治療の一つであり、報酬も高額なIMRT(強度変調放射線治療)という先端技術を保険診療で行うにも施設基準が定められています。これは放射線治療を専ら担当する『常勤』の医師を2名も配置と、がん拠点病院よりさらに厳しい制約が課されています。最近の改定で、常勤1名分は非常勤相当2名換算でも良しという少しだけ制約が緩和されましたが、非常勤でも週3日はその病院に勤務する必要があるので、ほぼ常勤に近い縛りです。

 IMRTはこの基準を満たせば、がん拠点病院でなくても算定できます。どの病院も基準を満たすために『常勤』の放射線治療医が必要なのです。医者の取り合いです。


 がん診療連携拠点病院は現在、全国に456 箇所も指定されています。

 一方、放射線治療医は全国的に慢性的に不足しています。専門医は令和5年4月1日現在で1406名しかいません。仮にがん拠点病院だけに全専門医を配置したとしても、1病院におよそ3名となります。


 そして、この放射線治療専門医リストをまじまじとながめると、いろいろな問題点が浮かび上がってきます。がん拠点病院ではなくても稼げるIMRTや定位放射線治療、粒子線治療といった高精度放射線治療をバリバリ行っている民間放射線治療施設さんご所属の先生方、結構いらっしゃいます。さらに実は、現場で放射線治療業務を行っていない大学基礎研究系のお医者さんを始め、内科開業医さんやら健診勤務医さんやら定年退職医さんやら産休などでセミリタイヤ女医さんもたくさんいらっしゃいます。

 専門医資格を持っていても、行使されていないお医者さんがかなり多いのです。開業医&病院非常勤医の私もその一人になるのですが...

  

 『常勤』という制約、先ほども触れた20年くらい前から多くの学会の中でも議論がなされてきました。もちろん医療の質を担保するためという厚生労働省のお役人様たちからの縛りが主なわけですが、学会の重鎮医師たちからも「『常勤』にしないと、非常勤では診療の質が落ちる」とか「フリーターのような職種が増えて、安全性や信頼性が担保されない」といったご意見があり、現在まで至っています。

 放射線治療医に関してはいずれ人は増えるだろうという当時の見込みのもとで、品質が低下する可能性ある診療は避けたいと制約をかけ続けてきた部分があると思います。しかし、(重鎮らの)予想に反し、医者の人手不足についてはいまだ厳しい状況が続いています。

 

 放射線治療の安全性に関してですが、21世紀に入ってまもなく、国内の放射線治療現場で過剰または過小照射事故報告が相次いだことがありました。実は、私もその当事者になってしまったことがありました。またそういった事故を起こした施設に着任したこともありました。

 直に体験したことで多かったのが、スタッフの人数が足りずに一人で多数の業務を抱えることにより、ある思い込みや勘違いがダブルチェックされず、いろいろな要因が重なることでチェックをすり抜けて事故が起こってしまう(スイスチーズモデルともいわれます)ことでした。


 被害にあわれた方々には、いまだになんとおわびをしてよいか。そして、おわびをしたからといっても、元に戻るわけではありません。そんな誠に申し訳ない経験をしてしまった私ですので、放射線治療診療の品質を確保することに関しては、まったく賛同いたします。

 実は、当時公表された放射線治療事故の施設件数はおそらく氷山の一角でした。当時、「うちはこわくて過去の実態調査なんてできない」と話していた先生方も少なくありませんでした。表に出ず埋もれてしまったままの事故は少なからずあったはずです。


 一方で私は、20年以上前から数カ所の病院で何年間も1人で診療する環境にいました。とても大変な入院患者さんの診療を画像診断医や他科の先生にご協力を仰いだこともありますが(改めて本当にご協力ありがとうございました)、放射線治療担当は実質1人でした。先ほど書いた「一人で多数の業務を抱える」状況が続きました。放射線治療業務なので(夜間休日も関係なくコールがある病棟業務は別として)体力はあまり使いませんが、知的にも精神的にも行き詰まることが時々ありました。

 その頃から、常勤であれば診療の質が担保されるというのは、そういう立場にいたことがあまりないお偉い先生方の思いこみだと思ってきました。常勤であっても人数が少ないと、特に1人だと相談や確認する機会も乏しく、潜在的なリスクが起こりえます。ちなみに「1人放射線治療医の会」という集会が、日本放射線腫瘍学会などで毎年開かれています。「1人常勤医で大変だ」という半分愚痴をこぼすような会です。20年くらい前からほとんど変わっていません。


 『常勤』という縛りは、たった一人の医師しかいないという劣悪環境をいまだに作り上げてしまう、好ましくない規制だと私は思っています。常勤医がいるから放射線治療の品質が担保されるというのは、いささか疑問です。1人常勤でくすぶったりやる気を失った先生方をこれまで何人も見聞きしてきました。もちろん、重鎮の先生方が懸念されるように、非常勤やバイトが増えると品質が低下する可能性はあるでしょう。でも、うまく利用すれば逆に複数人の目線で介入できる(スイスチーズモデルでいう事故予防につながる)可能性だって高まります。複数施設で勤務できる人的資源の有効活用にも繋がります。品質そのものは、医学物理士さんや放射線治療認定看護師さんなど多職種専門家の連携でかなり担保できるようになってきました。


 がん拠点にしても、IMRTにしても、多くの人を苦しめている「常勤」縛りは撤廃方向で動いて、品質保持の代わりとして「オンライン診療」の普及をもっと目指したほうが良いんじゃないか?20年くらい前から、ずっとそんなふうに思っています。セキュリティやバイト増加(お金儲け)のリスクあるからという反対ご意見があります。オンライン診療を研究している学会でも偉い先生方は同じことを言い続け、規制をかけ続けてきました。しかし、いざコロナ禍でなし崩し的にオンライン診療を始めざるを得なくなったら、意外に大丈夫だったし便利だった。で、重い腰を厚労省も上げてオンライン診療を段階的に承認しました。

 放射線治療分野はそもそもコンピュータ作業が多く、20年くらい前からオンライン診療に向いている業界です。そして、コンピュータ好きな(そして対面診療は比較的得意でない?)お医者さんや技術者や企業が集まる業界です。もっといろいろな形でのオンラインによる遠隔診療が普及できるだろう業界です。課題はいろいろありましょうが、運用しながら修正してゆけば良いのではないでしょうか?


 学会などでろくに主張も活動もしてこなかった私の独り言ではありますが、同じように思ってる、そして今とても困っている先生方、大学教授も含めて少なくないんじゃないでしょうか?

 

 ちなみに私は少し別の切り口で、今後の放射線治療分野のオンライン診療普及にお役に立てるよう活動していこうと思っています。




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