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ほぼ全肝照射1回で肝臓痛(と生存率)改善


 久しぶりに放射線治療の研究報告をブログで紹介いたします。


 肝臓全体に広がったがんの痛みは、医療用の麻薬鎮痛剤ですら効果が出ない厄介な症状であることがしばしばあります。

 そんな患者さんたちに対して、ほぼ肝臓全体へ1回だけ放射線治療をしたら、半数以上で痛みが楽になり、(吐き気以外は)安全にできますよ。そして、延命にもつながりそうですよ、という報告が、国内外から最近ありました。


 でも、肝臓の広い範囲に放射線治療をしてもあまり効果なさそうだし、肝機能が悪い人が多いから命にかかわる副作用も出そう。そんな先入観を、たぶん放射線治療医ですら少なからず持っていました。ましてや内科や外科の先生方に至っては…

 また、ほぼ肝臓全体への1回(8Gy)だけの放射線治療については、あまりきちんとした評価がされていませんでした。ということで、以下にその報告を列記いたします。



カナダの臨床試験

 最初にご紹介するのは、今年1月にASCO(米国臨床腫瘍学会:がん治療分野で世界有数の学会)で報告されたカナダからの第3相臨床試験です。全例で1回8Gyのほぼ肝臓全体への放射線治療が行われました。


 全部で66人(肝転移43人、肝臓がん23人)が対象で、体調良くない(PS 2−3)患者さんが59%、肝機能が悪い方(Child Pugh BまたはC)が36%も含まれていました。結果ですが、1ヶ月後に痛みが改善する割合は、1回照射グループのほうが経過観察だけグループより明らかに良く(67%と22%、p=0.004)、放射線治療をしても重い副作用はほとんどなかったそうです。さらに、放射線治療をしたほうが長生き傾向だったそうです(3ヶ月生存率51% vs 33%,、p=0.07)


 ASCOの報告は、がんナビさんサイトで日本語の詳細がまとめられていますので、興味ある方は以下のURLからご覧ください。



都立駒込病院さん論文

 次にご紹介するのは、去年報告された日本人の転移性肝臓がん患者さんたちに対する、ほぼ肝臓全体へ1回照射の論文です。先ほど触れた「効果なさそう、副作用が嫌」という慣例的な理由で、多発肝転移の患者さんに対し肝臓へ広範囲1回照射を行う国内の施設はほとんどありませんでした。これは、日本人でも大丈夫なのか?を検証した重要な論文報告です。


 全部で延べ73人(2人で全肝照射2回と)が対象となり、ほぼ肝臓全体(半数超で全肝臓)へ1回8Gy照射が都立駒込病院さんで行われました。結果ですが、痛みがあった患者さんの3人に2人が1ヵ月後に症状改善していたそうです。そして、もともと肝機能が悪かった方々(Child Pugh Cの6例)を含めて重い肝機能障害は出なかったそうで、むしろ肝機能検査は照射後2-4週で有意に改善したそうです。

 この報告は転移性肝がんに限定された研究ではありますが、カナダの臨床試験同様に、おそらく肝細胞がんでも有効であろうと思います(もちろん何らかの研究成果が必要)。


 駒込さんの報告は、日本放射線腫瘍学会ホームページで詳細がまとめられていますので、興味ある方は以下のURLからご覧ください。


 この報告は、一昨年に急逝された故唐澤克之先生が中心になって研究されたものでした。私も唐澤克之先生には公私で懇意にしていただいたので、とても悲しい出来事でした。多数の業績をお持ちの唐澤先生におかれては意義ある一つの報告だったと思いますが、まさに「今」肝臓の痛みで悩んでおられる日本人患者さんたちにとって救いの手となる大切な論文報告だと思います。

 私自身も、痛みを訴えられる肝臓がん患者さんたちへ広範囲肝臓の放射線治療を担当したことが何度かありますが、治療後しばらくすると多くの患者さんで痛みの症状がたしかに改善していきます。そして、あえて確認できる肝臓がん全てに放射線治療をせずとも、例えば「腫れが目立つ部分」とか「肝臓の中心で血管などが近い将来つぶれて命に関わる肝不全が起きそうな部分」など、広範囲照射が不安なら半分とか「副作用の出やすい胃十二指腸はできるだけ照射範囲外にする」とか工夫をするだけでも、かなりの効果が期待できます。


 なお、日本放射線腫瘍学会ホームページにも注釈として記載されていますが、肝臓への広範囲照射では悪心が高頻度に認められ、吐き気止め薬(グラニセトロンまたはステロイド)の予防投与が必須とのことです。担当の先生方は、どうぞご留意ください(と、患者さん側からもお伝え下さい)。



 肝臓全体への除痛緩和的放射線治療も、以前このブログでご紹介した出血性胃がんに対する緩和的放射線治療と同様に日本国内でもいずれ多施設共同臨床研究という形で発展し、多くの患者さんたちが癒やされる治療選択肢として広く認知されるようになることでしょう。

 また、たった1回の照射だけだから、在宅緩和ケアで肝臓の痛みに悩む方々にも通院負担が最小限で、症状緩和に役立つことでしょう。




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