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腎臓がん多発転移発覚から10年半(2)「がんの上手な手なづけ方」 シャムレッフェル・レックス著 悠々舎


 『余命6ヶ月と宣告されてから10年超えた著者が、がんの先端医療から注目の健康法まで自らの体験をもとに伝える』(表紙文引用)書籍です。著者のシャムレッフェル・レックスさん、経営者であり、元牧師であり、さらには得度を受けた僧侶でもあったという異色の経歴の方でした。


 あらかじめ私(院長)の意見をお伝えしておきます。この書籍に書かれた内容は大変参考になるものの、あくまでレックスさんが自分の病状に対して考え実行された個人的な方針や見解です。がんに罹患された全ての方々に適しているかどうか不透明です。

 このことは、以前にこのブログでご紹介した「がんが自然に治る生き方」(ケリー・ターナー著)でもお伝えしています。また、世の中に幾多あるがん患者さんの体験談でも同様だと思います。がんのいろいろな情報に(振り回されず)耳を傾けるのは望ましいことですが、決して鵜呑みにはせず、いかに自分の中で消化し自分の血肉に変換できるかが大切なのだろうと考えます。実際にいろいろなことを実行されていたレックスさんも、自分で考えて感じて行動されていました。なかなか簡単なことではないですが、まずはやってみるというのは一つの大事なポイントだと思います。



 最初に、この書籍のプロローグに書かれている〜生死を分けた鍵は何か〜より、以下に一部を引用させていただきます。

『2011年、桜の咲く頃。たまたま受けた人間ドックで問題が見つかり、精密検査にまわされた僕は、腎臓がんステージ4の診断を受けた。リンパ節と肺にも転移が認められ、外科手術をするにも、放射線治療をするにも、すでに手遅れの段階だった。

 担当医は「何もしなければ余命は半年です」と、気の毒そうに僕に告げた。抗がん剤を使えば1年、うまくいけば2年までは延命ができるかもしれない、そんな見立てだった。

 (中略)

 でも、それから9年半(書籍初版は2021年2月発行)にわたって治療と養生生活を続け、宣告された余命を伸ばしてきた僕には、生死を分ける理由について、経験から得たいくつかのヒントがある。この本では、それを明らかにしていきたい。同じ病気を患う人々の参考になればいいな、と思っている。』(p.4−6)


 その(1)でも少しご紹介しましたが、西洋医学・代替医療・食事療法・セルフケアなど、本当にさまざまなことをレックスさんは実体験されていました。病院で受ける保険診療の化学療法や放射線治療だけでなく、免疫細胞療法・遺伝子治療・動脈塞栓術や動注化学療法・高濃度ビタミンC療法・免疫療法、といった自由診療。よい効果がみられない物もあった一方で「効いた」と(レックスさんが)実感できる治療法も確かに存在したそうです。また、世界中にあるいろいろな食事療法や、セルフトリートメントとしての温灸・温熱・温泉・電位治療・高圧酸素・ケイ素・水素・マイクロ波・近赤外線療法などといった多彩なアプローチも多数なさっていました。私も実際にレックスさんのご施設へ表敬訪問し、いろいろ取り揃えた広い施術室をみて大変驚きました。

 レックスさんご自身の書籍でも記されていますが、そこまでしても『がんは、きれいサッパリ消え去ってくれたわけではない。2020年の診断書では、がんは全身30ヶ所に存在』(引用)していました。私もPETCT&MRI画像や治療内容など経時的な医療データをレックスさんから直接確認させていただきましたので、間違いありません。がんが良くなっている部分、進行していた部分が混在していました。ただ、(そういったいろいろな療法をなさっていたからなのか、がんの病状進行が遅くてそうだったのか、医学的には誰にも証明できませんが)私が初めてお会いしてからも数年もの間、担がん状態で「生き生きとした表情で」過ごされていたのは、私にとって驚くべきことでした。


 また、レックスさんがいつも心がけていらした、がんが発覚してからの生き方についても書籍で以下のように記されています。

『がん患者になると、つい悲観的になって鬱々とした気持ちで過ごしたり、理不尽な運命にイライラして過ごしてしまいがちだ。でも、それではせっかく生かされている日々を台無しにするだけだし、身体にも悪い。

 がんがよくなる可能性に向かって、いくつもの道が開かれていることを、僕は知っている。宝探しをするような気持ちで、治療法探しに取り組むのもいい。大冒険に乗り出すようなワクワクした気持ちで、新しい治療にチャレンジするのもいい。

 あなたがこの本を携えて、そんな道行きを意気揚々と歩んでくれたら、僕は心から幸せに思う。』(p.12)

 このことを(全身に数十カ所もがん病巣がある中で)ご自身だけでなく、同じような境遇で苦悩されている多くの方々にも、温泉健康施設で食事療法などの「体質改善プログラム」や「多種類の補完代替医療系施術装置を実体験」などご提供されながら、心身両面のサポートをされていらっしゃったことに、とても感銘を受けました。全国にもいろいろな補完代替医療系機関やサロンがあり、また医師を含めた施設の開設者ががんサバイバーである場合もあります。しかし、末期とは言わないまでも現在進行系で全身転移が多数あり、がんに伴う症状もいろいろ抱えてご自身の治療だけでも大変だろうことなのに、他の方々にも積極的にご案内ご活動されるレックスさんのような方は、私が知る限り稀有です。彼は「生きるとはなんぞや」ということをいろいろ私に教えてくださった、メンター的存在の方でした。

 


 レックスさんは残念ながら、昨年秋に他界されました。実はまたその時に、私にとって3度目となるレックスさんとのあまりに偶然な出来事がありました。

 病状の進行などにより遠方通院が大変になってきて地元施設での在宅緩和ケアを導入されていたことは、オンライン面談やメールなどで事前にご本人や奥様から伺っていました。世のコロナ感染状況が少し落ち着いたことで再開していた私の月1回の新百合ヶ丘総合病院診療支援出張の帰り、私の開業報告を兼ね熱海のご自宅を訪問する予定となりました。まさかその時に私がレックスさんのお看取りをするなんて、全く想定しておりませんでしたが。


 訪問予定日が近づくにつれ、レックスさんの体調が芳しくなかったことは伺っていました。しかし、ご本人から「ぜひ遊びに来て」とお招きいただいたので、予定通り面談訪問させていただくことになりました。本人の意思で断食療法をなさっているとのことでした。

 訪問数日前から意識が混濁し始めていたそうですが、レックスさんに久しぶりにリアル対面した時は、呼吸が荒くほぼ意識はない状態でした。医師の感覚であまり長くないことは容易に察することができました。私が訪問した時に、すでに独立されていたレックスさんの子供さんたちもお見舞いに来ていましたので、ご家族やお手伝いさんたちと会食をしながら最近の経過などいろいろなお話を伺いました。


 夜もふけてきたので、私は別棟の部屋で休ませでいただくことになりました。しかし、何ということか。。。就寝しようとしていたら(つまり私がご自宅に滞在してほんの数時間後)、子供さんから「先生、(レックスさんが)おかしいから来てください」と連絡。あわててレックスさんの寝室に入ると、奥様と子供さんたちが見守る中、レックスさんはすでに息をしていませんでした。地元かかりつけ在宅診療医に定期的に診てもらってはいたのですが、たまたま居合わせた私が医師としてレックスさんのご臨終の場に直接立ち会いお看取り宣告をすることとなってしまったのです。

 レックスさんとの出会いも再会も偶然でしたが、まさかたまたま久しぶりにご訪問したその日に。。。なんとも大変悲しい出来事でした。ただ、とても残念なお別れの時は来てしまいましたが、たまたま最期の瞬間に立ち会うことになり感謝の言葉を直接お伝えできたことは(語弊ありますが)良かったです。



 レックスさん、いろいろありがとうございました。それまでの10年半のレックスさんの生き様は、私の新しい開業という生き方の後押しをしていただきました。レックスさんのことを語り継ぐ医師として、世の中に役立ってまいります。

 現在はレックスさんご家族のご意向で、温泉健康ホテルの営業はしていらっしゃいません。でも、いつの日か私もレックスさんが運営されていた理想的な温泉健康保養施設のような所で、がんに罹患されている方々だけでなくいろいろな境遇の方々と心身とも安楽に過ごすリトリート環境での診療や生活をしているイメージを持ちながら日々過ごしています。


 最後になりますが、レックスさんは、がん患者の「心の持ち方」について新たな書籍でたっぷりお伝えしたいことがあるとおっしゃっていました。原稿が書き残してあるとご遺族様から伺っていますが、がん養生生活の大切な知識としてレックスさんが準備されたという「生と死」「現実世界とその裏側の世界」をめぐる1冊の本が世に出る日を、私はとても楽しみにしています。



PS:レックスさんからは(生前)このような形でいずれ個人情報を含めたご報告をさせていただくことを口頭でご快諾いただいておりました。先日も奥様から「レックスも天国で喜んでいると思います」とご連絡をいただいております。が、もし不備や違反がございましたら、記載内容を修正させていただきます。


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