• 和田仁

JASTRO大会長ご講演「放射線治療に関わるネットワーク・システム構築」、私が思う課題


 今年の日本放射線腫瘍学会(JASTRO)第34回学術大会長講演は山形大学理事で副学長の根本建二先生による「放射線治療に関わるネットワーク・システム構築」でした。ライブ配信は11月12日だったのですが家庭の事情で当日は拝聴できず、今月に録画配信となり私もようやく見終わりました。

 山形大といえば(私の旧所属施設ですが)最新型の重粒子線装置を導入したことで世界からも注目を集める施設です。先日のブログ笑うと長生き!世界初の大規模疫学調査報告でもご紹介した大学病院です。でも実はそれ以外に、タイトル通りのネットワーク構築で全国に先駆けたいろいろな活動を(私が在籍していた時から)根本先生が中心となって行っていた施設でもありまして、今回の大会長講演は現時点での集大成的な内容でした。私も様々な記憶を思い馳せながらの拝聴となりました。懐かしいもの、がんばったもの、思い出したくないもの笑、私も当時いろいろありました。

 

 ご講演冒頭で根本先生曰く、「急速に進歩する放射線治療技術のさらなる発展のために、ネットワーク構築によるサポートシステム導入でさらなる普及や有効活用ができるのではないか」というミッション。その具体的ツールとして山形(を始めとする東北地方)で取り入れられた、①キャンサー(トリートメント)ボード、②遠隔放射線治療システムの構築、③広域がんネットワーク、この3つのテーマについてのご講演でした。


①病院主催のキャンサーボード集中開催(山形大ではがん治療方針に特化した医師を中心とする多職種カンファレンスをキャンサートリートメントボードと呼んでいます)

 曜日を決め集中的に病院全体で、多数ある診療科のキャンサーボードを効率よく行っているシステムで、全国に先駆けた取り組みです。山形大医学部のホームページに掲載され、実は当時の私が今も写っています(マイク持ってます笑)。

https://www.id.yamagata-u.ac.jp/cancer-center/clinical_ctb.html  

 個人の医師だけによる外来診察室など密閉空間での診療判断や決定ではなく、病院として正式承認を得るオープンな方式という点でも、大変意義ある仕組みです。


 課題としては、主役である患者さん不在の会議であることが挙がるでしょうか。方針決定は病院全体としても、結局はこれまで通りに外来で担当医と患者さんがほぼ一対一での説明(Shared Decision Makingより、Informed Consent寄り)となってしまうことが多いと思います。現実問題として、生々しい医学情報議論を患者さんの目の前で口に出して映像を出して検討しにくいこと、多忙なスタッフによる多人数会議の時間的制約もかなりあること、院内の奥まった部屋に多人数の一般の方を安易にお招きしにくいこと、オンライン対応にしてもまだまだ個人情報保護法などの具体的な対応が脆弱であること。こういった理由で実際のキャンサーボードで患者さん中心のボード開催は簡単でないことは、山形大のこの現場に立ち上げ時から長らくかかわった私自身もよくわかります。

 最近、厚労省も広告している緩和ケアにおける「人生会議(アドバンスケアプランニング)」が患者さん中心の話し合いとして注目を集めています。しかし、がんの治療方針決定の話となるとまだまだこれからの領域であり、多くのがん患者さんにご提供されるようになるにはしばらく時間がかかりそうです。


②遠隔放射線治療システムの構築

 主に放射線治療計画支援システムのネットワーク化を前任地の宮城県と山形県を軸に全国に先駆けて整備してきた業績についてのお話でした。放射線治療計画支援システムのネットワーク化については私も山形大時代にいろいろ関わらせていただいたので、また改めて別のブログで話題にしたいと思います。

 現在、改定第2版の遠隔放射線治療計画ガイドライン2019というのが日本放射線腫瘍学会ガイドライン委員会から出ています。実は、2010年に出た遠隔放射線治療計画ガイドライン初版、私が代表で作成させていただきました(添付画像はガイドライン1ページ目と最終ページ)。平成 19-20 年 JASTRO 研究課題「遠隔放射線治療計画支援の運用指針作成」研究班が中心となって作成したのですが、当時は手探りの状態でたくさんの専門家の方々にご協力いただいたことが懐かしく、また今でも感謝の念に耐えません。

https://www.jastro.or.jp/customer/guideline/2016/10/remote_radiation_therapy.pdf


 現在のコロナ禍でオンラインによる遠隔診療が否応なく普及し始め、約2年前に時限措置で対面での診療なしにオンライン診療が可能となりました。そして今度の診療報酬改定で、ついにオンライン診療が事実上の解禁となりそうです。ようやくそんな時代がきたのかと思うと、当時あまり知識がない中、それなりに苦労して学び調べて完成したガイドラインの代表者として、まだ10年くらいしか経ってないのに隔世の感があります。


③広域がんネットワーク

 現在、主に東北地方の放射線治療可能63施設をビデオ会議でつなぎネットワーク化しています。この広域放射線治療遠隔カンファレンスシステムにより、県を越えた高度ながん放射線治療が可能になりました。Panasonicさんのサイトにその宣伝資料が掲載されています。

https://content.biz.panasonic.com/jp-ja/fai/file/587


 これだけの規模で多くの医療施設を結んでいるがん相談システムというのはなかなかないでしょう。せいぜい全国のがん診療拠点病院間を接続しているネットワークくらいでしょうが、これも基本的には病院間の学術会議などに用いられているようで個々の症例を相談するためのものではないようです。上手に利用すればとても素晴らしいシステムだと思いますし、お膝元の山形県内では実際に有効活用がなされているようです。

 しかし、せっかくインフラが整備されても実はまだまだネットワーク活用が不十分な状況と個人的には思っています。 昨年まで在籍していた南東北がん陽子線治療センターでは、このシステムを使って患者さんが紹介されることは一部の施設を除いてほとんどありませんでした。大学病院ですら。一つの大きな理由は、放射線治療科の医師が主治医ではないことでしょう。先日のブログ「出血性胃癌に緩和的放射線治療は極めて有効:世界最大の前向き多施設共同観察研究」のときにも触れましたが、大半の放射線腫瘍医はがん患者さんの主治医でないので他の施設に主治医の了解なしに勝手に相談することは容易ではありません。主治医から直接紹介されるケースはもちろん何度もありました。でも、それは患者さん自身が直接遠方まで受診しに来るか、主治医からテキストベースでの事前相談があるかであり、詳細な診療情報を画面共有しながらのオンライン相談ではありませんでした。


 課題としてここでもやはり患者さん不在のシステムであることが挙がるでしょう。運用の仕方の工夫もきっと有るだろうとは思いますが、これだけではまだまだ足りないことも露呈してきたようです。


 ということで、①においても③においても(おそらく②においても)、今後は個々の利用者さん( ≒ 患者さん)自身が主導権を得られるShared Decision Makingを重視した別のネットワーク構築も必要だろうと私は思います。がんコーディネートくりにっくでは是非ともその一翼をにないたいと考えております。