top of page

がん検診の特ダネ情報(2)


前回ブログの続きです。


12.がん検診:他の欠点

 がん検診には他にもいくつかの欠点があります。

・身体への負担:検査によって放射線被ばくなどの身体的な負担が生じることがあります。

・金銭的な負担:検査や治療にかかる費用が高額であり、財政的な負担を強いられることがあります。


13.医療機関における被ばく

 医療機関での検査による被ばく量は

・胸部X線:0.04ミリシーベルト

・腹部X線:1.2ミリシーベルト

・胸部CT:7.8ミリシーベルト

・腹部CT:7.6ミリシーベルト

・バリウム消化管透視:8.7ミリシーベルトです、

 ちなみに、福島原発事故の放射線量は、マイクロシーベルトで測られます。これは、医療検査による被ばく量よりもはるかに少ないです。


 日本の法律では医療被ばくに上限は設定されておらず、基本的に各医師の裁量権に任せられています。そのため、日本の医療検査の被ばく量は世界でトップクラスです。このことは、被ばくリスクを理解する上で重要なポイントです。


14.放射線と生活習慣で「がん」になる危険度

 国立がん研究センターの調査結果を示しています。

 例えば、胸部CTをほぼ毎月受けた場合(100ミリシーベルト≒7.8x12)の年間リスクは1.08倍です。これは、塩分の摂り過ぎや運動不足などの生活習慣のリスクよりも低いことが示されています。また、2000ミリシーベルトもの大量の放射線を浴びた場合、がん発症リスクは1.6倍に上昇します。これは、喫煙や毎日の飲酒量が3合以上と同等のリスクで、つまりたばこや大量飲酒はかなり危険だということです。


15.マンモグラフィー? 乳腺超音波?

 40歳以上の方は、2年に1度のマンモグラフィー検査が推奨されます。また、乳房が高密度で見づらいと判定された場合、乳腺超音波を併用することでがんの検出率が向上するという国内の調査結果があります。

 一方、40歳未満の方は、1年に1度の乳腺超音波検査が推奨されます。乳房が高密度であったり、放射線被曝のリスクがある場合は、マンモグラフィーを避けることが勧められます。


16.胃カメラ? バリウム?

 胃カメラの良いところは、

食道がんを発見する能力が高い(約9対1)

・特に若い人にとって放射線被ばくのリスクが低い

ことです。

 一方、胃カメラの悪いところは、

・検査の際に不快さや侵襲のリスクがあることです

・また、稀なスキルス胃がんでは、バリウム検査の方が発見には有利です。ただし、被ばくリスクが高い若年層での発症が多く、そもそも発症頻度が少ないので、検診の意義としては疑問視されます。

 ちなみに、国内で行われるバリウム検査は、東北大学で始まった歴史があります。


17.胃がんリスク層別化(ABC)検診

 胃がんのリスク層別化(ABC)検診は、最近日本で注目を集めています。この検査では、特にピロリ菌感染が胃がんのリスクと密接に関連しています。ピロリ菌が胃に感染すると、胃の内側に炎症が起こり、これが胃がんのリスクを高める一因となります。この炎症が進むと、萎縮性胃炎と呼ばれる状態になり、さらに胃がんのリスクが高まります。つまり、ピロリ菌感染 → 萎縮性胃炎発症→ 胃がんリスクの流れです。

 この検査は、ピロリ菌や胃の状態を調べて、胃がんになるリスクが高い人や早期段階での胃がんの兆候を見逃さないようにするのに役立つと言えます。一方で、ピロリ菌に感染していない群は内視鏡検査が原則非推奨であり(食道癌は別)、いろいろな負担が減らせる検査法でもあります。


18.重喫煙者以外のCT検診は非推奨

 【肺がん検診ガイドライン2022】では、重度の喫煙者のみを対象にしたCT検査が推奨されています。重度の喫煙者に関する欧州での大規模な比較試験では、有意な結果が示されました。また、メタアナリシスによると、死亡率の減少効果がほぼ確認されています。このため、日本でも低線量のCT検査が効果的である可能性が高いと考えられます。メタアナリシスとは、複数の研究結果を統合して、一つの大きな結論を導き出すための方法です。

 一方で、非喫煙者や軽度の喫煙者については、無作為化比較試験の報告がなく、対策型検診としての価値が明確ではありません。したがって、これらのグループに対しては、特別な検診を行う必要はないとされています。


19.PET(ペット):Positoron Emission Tomography

 ポジトロン断層撮影(PET)は、がんの検査に使われる方法です。患者さんに少量の放射性物質が含まれた薬剤を注射します。この薬剤は体内で取り込まれ、がん細胞が通常の細胞よりも多くのブドウ糖を使用する性質を利用して、がん組織を画像で撮影します。

 例えば、早期肺がん患者さんのCTとPET-CT画像を比較すると、CT画像では、白い影が見られますが、これが炎症なのかがんなのかは区別が難しいことがしばしばあります。一方、PET-CT画像では、その影が赤く光り、がんの可能性が高いことがわかります。


20.注目の全身MRI(DWIBS:ドウィブス)

 最近注目の全身MRI検査があり、DWIBS:ドウィブスと呼びます。

 この検査は放射線被ばくがなく、何度でも利用できます。さらに、PET検査が難しい糖尿病や腎不全の方でも検査を受けることができます。また、この検査では注射や絶食の必要がなく、撮影時間も約30分で終了します。さらに、PET-CTよりも安価でありながら、ほぼ同じくらいの診断能力を持っています。

 ただし、保険診療で検査できる施設はまだ限られています。私が知る限り、宮城県、そしておそらく東北地方にはまだありません。


21.PETCTと全身MRIの比較

 PETCTと全身MRIを比較しました。

・PETCTよりも、全身MRIは医療被ばくや検査時間が少なく、注射や食事制限が不要です。

検査費用も比較的低く、検査不可な方も少ないです。

・PETCT1回の値段でMRIは2-3回可能であり、被ばくリスクもないので、がん治療の経過観察においてもたいへん有利です。

・なお、検査の苦手な臓器が異なり、胃腸はどちらも内視鏡検査が優先されます。

 ということで、私ならPETCTより全身MRI(DWIBS)を選択します。保険診療は普及していないのですが…


22.がん検診のアンケート調査

 次は、がん検診の金銭的な負担についてお話します。がん検診に関する日本医師会のアンケート調査では、検査費用が最も大きな問題とされています。全体の40%の人たちが高い検査費を挙げており、過剰治療や偽陽性の問題よりも多くなっています。


23.フルセット検診は必要?

 がん検診では、数十万円かかるフルセット検診など、高額な全身がんコースもありますが、それが必要なのかどうかは悩ましい問題です。一般的に、個々の健康状態やリスク要因によって必要性が異なります。医師との相談や適切な検査項目の選択が重要です。


24.腫瘍マーカー検査は必要?

 がんの治療状況を判断するために使われる腫瘍マーカー検査は、がん検診に必要かどうかは疑問視されています。

 前立腺PSA検査は例外的で、がんを早期に見つけるのに役立ちます。ただ、特に高齢者に対して過剰な検査や治療につながる可能性があります。他の腫瘍マーカーに関しては、ほとんど役に立たないと考えます。これらの検査は比較的安価ですが、料金は1項目あたり2千円以上かかります。また、早期のがんの場合、ほとんどの場合、検査結果は正常値になることが一般的です。

 私を含めた多くのがん専門医が、がん検診における腫瘍マーカーの意義については否定的な意見をお持ちです。


25.がん「リスク」検査

 最近注目されているがん「リスク」検査はいくつかあります。これらの検査は、がんのリスクを早期に評価するために役立つと報告されています。

・胃がんABC検査:先ほどご説明いたしました。

・HPV検査:ヒトパピローマウイルスと子宮頸がんの関係を調べる検査です。

・Prodrome-CRC、PAC検査:大腸がんや膵がんのリスクを評価する検査です。早期のがんの兆候を検出することで、治療の早期段階での行動を可能にします。

・アミノインデックス検査:がん、脳卒中、心筋梗塞などの三大疾病のリスクを評価する検査です。血液中のアミノ酸のパターンを分析し、疾患のリスクを推定します。

 コマーシャルなどで良く見聞きする線虫を使ったがん検査など、一種の新しいアプローチです。特定のがんの存在を示す生物学的な変化を線虫が検出する能力を利用しています。しかし、これら検査法の臨床での精度や有用性については、まだ十分に研究されていないため、その信頼性については疑問視されることがあります。一部の検査においては学会から懸念の声も上がっており、現時点では慎重な検討が必要です。

 また、がんリスク検査の費用は1つ数万円前後かかることが一般的です。


26.がん診療で期待のリキッドバイオプシー

 リキッドバイオプシーとは、わずかな量の体液を使ってがんの検査を行う方法の総称です。この方法は、がんの早期発見や治療効果の判定に注目されています。リキッドバイオプシーでは、血液や尿などの体液中にがんに関連する情報が含まれているため、がんの有無や種類を特定することが可能です。

 ただし、がんが早期段階であり、体液中にがん関連の情報が少ない場合、リキッドバイオプシーではがんを見つけることが難しいことがあります。そのため、この検査法の有用性は、がんの進行度や患者さんの状態によって異なります。


27.主なリキッドバイオプシー検査

 リキッドバイオプシーは、従来の組織生検とは異なり、手術を伴わずに体液を採取するため、より非侵襲的であり、患者の負担が少ないとされています。具体的には、血液中の循環がん細胞(CTC)やがん関連遺伝子(DNA)、尿やだ液中のがん関連遺伝子(RNA)などを分析します。これにより、がんの有無や進行度、治療効果のモニタリングなどが可能となります。

 ただし、リキッドバイオプシーはまだ新しい技術であり、その精度や有用性についてはさらなる研究が必要です。しかし、将来的にはがん検診や治療の進化に大きく貢献する可能性があります。

 なお、リキッドバイオプシー検査について、よくあるご質問と当くりにっくの回答や見解を、以前のブログ(以下のURL)にまとめています。ご一読いただければ幸いです。


28.要精密検査、どこで受けたら良い?

 この質疑応答は、日本医師会ホームページの情報を参考にしています。

質問「がん検診で要検査の判定を受けたら、精密検査はどこで受けるのがいいですか?」

回答「がん検診のタイプによって、精密検査の方法が異なります。適切な医療機関で精密検査を受けるためには、検診を受けた医療機関やかかりつけの医師に相談してください」

 ただ、がん診療の経験豊富な健診医は少ない、と私個人的には感じています。また、地域や医療機関、所属する医師はどう選んだらよいのか、自分の精密検査はどこで受けるのが適切なのか、よくわからないことが多いかと思います。


29.がん検診は悪か?

 いくつかの書籍では、以上のがん検診の欠点や全体の死亡率に影響しない、費用が高い(儲けている)ことなどに疑問を投げかける内容が取り上げられ、センセーショナルに販売されています。人それぞれの考え方や選択肢として、私のこのような書籍をいろいろ集めて拝読します。

 しかし、がん検診にはがんから命を救う効果があるという証拠はかなり示されている、と私は判断しています。もちろん、それぞれの検診にはいろいろな利点と欠点がありますので、個々の状況に応じてより良い選択をすることが大切です。



 がんコーディネートくりにっくでは、がん検診での疑問や不安などのご相談を承っております。どうぞ、お気軽にお問い合わせください。


 なお、次回3度目のタピオ館立オープン大学講座では、リキッドバイオプシーについて話題提供を予定しています。ご参加、お待ちしております。



がん検診の特ダネ情報(1)URL




bottom of page