top of page
和田仁

がん患者さんが藁にもすがる「パワーワード」




 Wikipediaによると、三省堂の「今年の新語2017」で、「パワーワード」は3位にランクインしたそうです。がん診療関連だと、例えば右図に挙げたような文言がしばしば目にするパワーワードと言えるかもしれません。



 今月11日の文春オンラインに、『《がん免疫療法の落とし穴》藁にもすがる患者を誤解させ、高額治療に誘導する「国立大学病院」が失った“医の倫理”「カフェイン療法で死亡事故の過去も」』というタイトルの記事が掲載されています。『第1回は、国立金沢大学附属病院の敷地内で行われていた、民間クリニックの免疫療法についてお伝えする。』(引用)とあるので、今後も他の関連記事が掲載されるようです。 https://bunshun.jp/articles/-/58661?fbclid=IwAR2klp9KGf8dxJLOXnlTuBmwaT9medopLCDg3vOVVLnhhhTBaIrU6zY0yJE

 その中で、パワーワードについて以下のように触れられています。『大半のがん患者は、免疫細胞療法をめぐる歴史や現実を知らない。だから、「次世代のがん治療」「副作用が少なく身体に優しい」「末期でも諦めない」などのパワーワードを並べる、免疫細胞療法に引寄せられてしまうのだ。』(引用)


 パワーワードの使用(乱用?)は、自由診療の免疫療法に限った話ではありません。万人に効果が出るかのような、みんなに奇跡が起きそうな(めったに起きないから奇跡なのですが…)、いろいろな誤解を生み出しがちな、これらの文言。やはり、製品売上や関連書籍販売などにも貢献するそうです。以前、ある方から伺ったのですが、「AmazonでNo.1」というパワーワード的な広告も、実は作為的に瞬間的にNo.1を取りに行き(裏技的な非公開テクニックがあるらしい)、No.1を取ってから本格的に売上を伸ばすという本末転倒的な手法があるそうです。

 医師免許を所有している人なら、どんな方でもこういった医療関係のパワーワードを表記することが可能です。もちろん、医療広告ガイドラインに逸脱する記載はできません。でも、けっこうあやしい文言をホームページなどに使用されている診療所や宣伝サイトは多いです…野放し状態とまでは言いませんが。行政のチェックは一体どこまでなされているのだろう?


 私、趣味と実益を兼ねて、がん関連の書籍やホームページを拝見する機会が多いのですが、パワーワードは本当によく出てきます。ネットでも本屋さんでも新聞広告でも良く見かけます。パワーワード使用がお好きな自由診療クリニックご所属の先生(医者)、私からすると「がん専門医」と謳われていたとしても、実験や研究が主たる業務である基礎系や、臨床系でも最前線の対がん患者さん業務が少ない放射線診断とか病理などの診療科医が多いなという印象を、個人的には持っています。そういったクリニックの多くが、体調が比較的安定した患者さんは定期的に診察しますが、治療効果がなく心身の体調が悪くなり受診できなくなった方々を診察することはほぼなくなるし、心身ともに大変となる全身管理を責任持って行うことはまずありません。病院や在宅診療の臨床医が引き継ぎ、最期まで診療するのが大半です。


 ちなみに私がずっと関わってきた放射線治療も、がん関連学会など多数決で負けがちな手術や抗がん剤の専門家たちに対抗(?)するため、「次世代のがん治療」「副作用が少なく身体に優しい」「末期でも諦めない」といったパワーワードを昔から良く使う診療科です。

 振り返れば、サイバーナイフが世に出てきた時も、陽子線治療や重粒子線治療が普及し始めた時も、最近ではBNCTが注目を集めてきた時も、そして免疫系に関係したアブスコパル効果という不思議な現象が注目され始めた時も、似たようなパワーワードを良く見聞きしました。分子標的療法も最近の光免疫療法も、注目された時は(今でも?)パワーワード満載でした。そして、その都度、たしかに一部の限られた患者さんにはパワー(本領)を発揮することがありますが、片や効果が見られないか一時的だった方々がとても多かったという悲しい経験も幾度となくありました。


 どの分野でも、教授など専門家の先生は、その仕事を生涯かけて打ち込んでいらっしゃる事が多いです。だから、お金儲けというよりは信念も思い入れも強く、パワーワードを使いたくなるのだろうと思います。また、広告や販売の業者さんは(そして、一部の先生方も)収益性は大事なので、人々が関心を引きやすい(つまり商品が売れやすい)パワーワードをできればたくさん使いたいのでしょう。

 私は決してパワーワードを全否定しているわけではありません。その言葉で治ると確信して、本当に良くなっていた方々も少なからず存じ上げています。そして、プラセボ効果もけっこう有効だと思っています。


 一方で、保険診療にこだわり過ぎ、なんでもかんでも自由診療を否定し、利用者さんの選択肢を奪うのもいかがなものか、と思っている立場でもあります。ただ、過剰に期待し変な方向へ誘導される一般の方々が多いことは、長年のがん診療の現場でしばしば経験してきました。

 現状の保険診療における制限や病院対応への不満など、医療サービスをご利用される方々の立場からは様々なご意見ご要望があると思います。片や、治療効果がなく心身の体調が悪くなり受診できなくなった方々に対して病院や在宅の医療者がその後の診療を引き継いできた状況を鑑みると、何らかの規制というかルール作りの検討が必要という方々も医療者を中心に多数いらっしゃいます。中途半端と揶揄されそうですが、私自身はどちらの見解も尊重しつつ、保険診療も自由診療も非医療的な施術などもすべて横一線の目線で、利用者さんに極力客観的な評価や情報提供、ご希望に即した紹介・仲介なども行える第三者的な組織や機関が存在すればと思う次第です。


 いろいろながん診療の選択肢が、利用される方々の拠り所や希望にもなるよう大切にしつつ、でもパワーワードがパワーワーストに陥ってしまわないよう、エビデンスやコストパフォーマンスなども気をつけながら、関わらせていただいた利用者さんと伴走していく。そんな役割を、がんコーディネートくりにっくとして引き続き果たしていければ、と思っています。




Comments


bottom of page