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患者市民参画の日本リンパ浮腫学会総会印象記


 2024年3月16‐17日、埼玉県川越市のウェスタ川越で第7回日本リンパ浮腫学会総会が開催され、初参加してきました。


 今回の学会では、できたてほやほやの新しいリンパ浮腫診療ガイドライン2024年版が先行販売されていました。一般販売より数日早いため、まだ誰も手にしていないことから(私を含めて)みなさん次々とご購入されていて、なんと初日に完売となっていました。会場での教育セミナーも、新しいガイドラインに関するものが多く、勉強になりました。


 総会のメインテーマは「リンパ浮腫研究と患者・市民参画」。患者・市民参画は学会初の試みだったそうですが、演題発表も、シンポジウムも、企業展示も、患者さんや支援団体の方々をはじめ一般の方がけっこう参加していらっしゃったようで、どことなく和やかな雰囲気に感じました。メインテーマの先入観が私にあったからかもしれませんが、患者さんとの距離は近そうな学会だなという印象を受けました。

 ただ、噂によると、もう一つの日本リンパ浮腫「治療」学会とはあまり関係性が良くないらしいです…(私を含めて)お医者さんたちはワガママな方が多いからしばしばあることなのですけど、いちばん大事な患者さんたちにとっては不利益なことですよね。


 そして、「患者・市民参画」以外に私が印象に残ったキーワードは、①リンパ浮腫難民、②リンパ機能低下症でした。


①「リンパ浮腫難民」について

 初日の午前に特別企画として「医療者と共に考えたい、患者からのSOS」が、夕方の学会・患者会「合同シンポジウム:臨床研究と患者・市民参画」がありました。


 シンポジウムにご登壇された先生方の総合討論では、学術的な臨床研究を進められたらという医師側の見解が優先していました。ただ、そのゴールとして具体的にどんな成果を上げるかという点では、歯切れの悪い内容に感じました。次回の診療ガイドラインに掲載されるような臨床データを目指すには、とても高いハードルがいろいろあります。研究資金、(悪法ともいえる)臨床研究法、そして市民団体と提携するには医療情報の共有は個人情報保護も含めて非常に難しいです。患者さんたちの体調変化などを調査するという比較的軽めな選択肢もあるでしょうけれど、患者からの切実なSOSに対する早期で抜本的な解決には至らない可能性が非常に高いレベルに留まってしまいそうです。


 そして市民団体代表としてご登壇されたのはリンパ浮腫ネットワークジャパン(通称リンネット)さん代表の方々でした。以下の『 』に学会抄録の記載を一部転載させていただきます。『リンネットで実施した実態調査でも、 調査に回答したリンパ浮腫患者 1,333 人のうち、76.9% の人がこれまでにリンパ浮腫の医療環境で困ったことがあり、62.2% の人が自分がこれまで「リンパ浮腫難民」だと感じたことがあると回答している。』

 リンパ浮腫で困っている患者さんたちは数多くいらっしゃるのに、医者を筆頭とする医療界の認知度にしても、保険診療を含めたお金の問題にしても、地域格差にしても(学会でお知り合いになれたリンネットさんによると、東北地方はリンパ浮腫のツンドラ地帯らしく…泣)、課題は山積です。

 リンパ浮腫ネットワークジャパンHP https://lymnet.jp/


 リンパ浮腫は典型的なアンメットメディカルニーズであり、まさしく「リンパ浮腫難民」をたくさんかかえる国です。それを具体的な形として世の中にアピールすることが大事ではないかと、初参加の初心者ながらも強く感じたシンポジウムでした。

 その後、リンネットさんのホームページをみたら「患者さんやご家族の医療環境を向上するための調査研究や政策提言を行い、タイムリーに患者の声を届けてまいります。」という活動紹介の文言を発見しました。他の医療分野でもそうなのですが、市民団体などとの合同調査は、厚生労働省(中医協など)に提出するような時間も労力も半端なくかかる学術的なものより、政治家さんたちへの提言に向けた言わば世論に訴える的なロビー活動のほうが即効性があり、かつ意義(≒成果)もあることが多い気がします。


②「リンパ機能低下症」について

 リンパ浮腫を発症すると、手術や圧迫などをしても元の状態に完治するのは難しいという現実があると、今回の学会でも重鎮医師が語っていました。ただ、診断や治療法が進歩してきており、早い段階で対応できれば症状改善することは可能、とも話されていました。

 私の認識不足だけかもしれませんが、手術後早期の浮腫と、後々に発症するリンパ浮腫は別物と解釈していました。しかし今回の学会で、術後浮腫はリンパ流が滞るリンパ機能低下症(もちろん他の原因もありえますが)であり、あきらかな浮腫がない「違和感」などの自覚症状がある段階でも積極的に診察をすることが良さそうとのこと。そして、早期に対応すれば、一過性の症状で改善する事が多いとも。リンパ機能低下症の診断技術がまだ十分ではない、新しい技術がまだ保険収載されていないなどの課題もありますが、リンパ浮腫診療も新しい時代に入ってきているということを認識させていただきました。


 ちなみに、ICG蛍光リンパ管造影検査という、リンパ浮腫の診断や治療補助にたいへん役立つ次世代技術が、トピックとして基調講演などで紹介されていました。残念ながら今回の診療報酬改定では保険収載に至らなかったのですが、多施設での医師主導治験も現在進行系とのことで今後の普及に期待が高まります。

 


 今回が初参加の私でしたが、光栄なことに演題発表の機会をいただきました。タイトルは「陰部リンパ浮腫症状が軽減した陰部浮腫ケア製品エミーナ®使用10人の経験」。初日の参加者ほぼ全員が聴講されたであろう昼過ぎの口演発表でした。抄録を事前に先月のくりにっくブログへ転記していましたが、今回発表したスライドの一部概要も近日くりにっくホームページに掲載予定です。https://www.ccc8jin.life/post/20240204

 エミーナは10年以上かけて利用患者さんたちとともに改良されてきたケア製品。シリコン製のむくみ部を圧迫するパッドがきめ細やかな手作りのため、またリンパ浮腫としての補助金対象外製品で全額自己負担となるため、購入代金(消耗品である専用の下着数枚込みで5万円前後)が今後の大きな課題です。「がん患者さんは治療の段階ですでにかなり出費している中、リンパ浮腫対策で必要な弾性着衣だけでなく、さらに陰部限定の商品に追加で数万円も出せるかというと、経済的にはなかなか難しい方が多いだろう」というお話をご参加の方からも伺いました。


 今のところエミーナは、専用ショーツを含めお買い上げ購入のみのお取り扱いです。ただ、ケアパッドは半永久的な使用が可能なシリコン製、適切な滅菌消毒をすれば再利用可能で、長期的には金銭負担面でもお得ではあります。

 今回の学会では、先ほどご紹介したリンパ浮腫に対する新しい(高額?)診断機器の紹介などで、サブスク(レンタルやリースなど)がそこかしこで話題になっていました。例えば腫瘍進行による終末期リンパ浮腫を発症し比較的短期間の使用にとどまる方々や、まずはお試しでどのくらい効果があるかを体感したいと希望される方々に対し、くりにっくとしてもサブスクの選択肢を考えています。



 初参加で顔見知りもほとんどいない学会ということもあり、質疑応答でわからないことは遠慮なくいろいろ質問させていただきました。また、市民団体の方々を中心に、多くの方との情報交換もできました。

 疲労困憊でしたが、とても有意義な2日間でした。ありがとうございました。


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