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立位CTは緩和照射の救世主!?


 先日のブログ『「緩和照射できません」失笑の放射線治療の会に失望』に対して、知人の放射線腫瘍医の方々から、SNSでいくつかアドバイスやコメント、励ましの言葉などをいただきました。ありがとうございました。具体的には「鎮静して照射は何度もやってます」とか、「プロポフォールでの全麻下での照射してます」とか、「自施設では、1cmくらいずれても全然いいですよ、と技師さんにお話ししたりもします(それでも、きっちり照射されますけどね)」とか。

 プロポフォール麻酔での照射、私も某病院に所属していたとき頭蓋骨へピンフレーム装着の定位照射でよく行いました。麻酔科も脳外科も協力してくれなかったので、仕方なく自分一人で、毎回ドキドキ緊張しながら。


 幼い小児がん症例の場合は、今でも普通に鎮静下での放射線治療を多くの施設で行っています。おそらく大半の施設が麻酔科か小児科の先生に毎回同行いただいて、麻酔をかけていただいているのではないでしょうか。

 最近はほとんどしなくなりましたが、すい臓がんなどの術中照射では、患者さんを全身麻酔したまま開腹したまま手術室から麻酔科医師を含めた手術担当スタッフが大挙して放射線治療室へ移送し、全身麻酔をしたまま放射線治療を行いました。照射中の全身麻酔となると、事前の準備も毎回大変で、他の放射線治療患者さんも長時間待たせる必要がありました。術中照射はBNCTで復活する可能性がありそうですね。


 もちろん、緩和照射でも鎮静や全身麻酔下でできないことはありませんし、実際に行っていらっしゃる施設もあります。ただ、緩和照射を行う症例の場合、がんの進行などで全身状態が低下していることが少なくなく、鎮静や全身麻酔そのものがその方の命に関わるリスクを伴う恐れがあります。ですので、なるべく身体に負担がかからないよう、短時間で日数もかけずに、放射線治療を行うのが望ましいでしょうか。

 

 放射線治療計画(治療の準備)として20世紀では普通に行っていたX線透視装置のようなX線シミュレーター、今どきの高精度照射計画からしたらあまりに粗雑に感じられるかもしれません。しかし、あれはあれで、特に緩和症例の準備には便利でした。なにしろ、簡単にすぐに設定できるんです。立ったままでもOK、車いす…はちょっと厳しいけど、できなくはない。

 21世紀に放射線腫瘍医となられた若い先生方は、X線シミュレーターによる放射線治療計画にはなじみが薄いかもしれません。あ、でも、小線源治療装置にはX線シミュレーターがついていますね。X線シミュレーター装置がなくても、X線診断用の汎用X線透視装置で代用できなくはありません。かなりアバウトな設定にはなりますが。


 あれこれと試行錯誤した私の体験談を以下にいくつか挙げてみます。


 ①いきなり治療装置寝台で横に(なれれば)なってもらって、SSDで測定済の矩形10x10㎝などで(可能ならMLCではなくJawか、シャドートレイで鉛ブロック入れて)、照合画像を撮影してだいたいOKなら緩和照射、なんてことをしたこともありました。

 ②治療装置寝台を使わず、立ったまま側方からSSDで測定済みの矩形10x10㎝などで(可能ならMLCではなくJawか、シャドートレイで鉛ブロック入れて)、照合画像を撮影してだいたいOKなら緩和照射、なんてことをしたこともありました。

 ③治療装置寝台を使わず、車いすに座ったまま、すごく苦労しましたがマットレスとかフラットな台座を使って、高さ調整して、斜め前からSSDもきちんと確認できずに測定済みの矩形10x10㎝などで(可能ならMLCではなくJawか、シャドートレイで鉛ブロック入れて))、照合画像撮影して、だいたいOKなら緩和照射、なんてことをしたこともありました。車椅子だとフラットパネルディテクターが使えず、現像作業を要した昔のフィルム撮影用カセッテをマニュアルなさじ加減で背中に置いて撮影しなければなりません。車椅子での放射線治療計画&X線緩和照射、私の放射線治療歴でたぶん2回行った記憶があります。SSDが何cmだったかは忘れましたが。ただ、今の装置だと、難しいかもしれません。

 今の最先端の治療装置、安全性を保つのはよくわかりますし、精度を担保するのもわかります。でも、CT撮らないと照射できない治療システムとか、フラットパネルでないと位置照合を受けつけないとか、昔の治療装置の手軽さ(良さ?)を知るものとしては、「できません」のオンパレードに「ふざけんな!」って気分になることもありました。

 ④幾多の機器制約をかいくぐる為、治療部位はかなり限定されますが、計画CTでなく近々の診断CTを取り込んで模倣計画を作成して、照合画像がなくても照射できる15-20MeV電子線で(もちろんおよその位置確認は必要ですが)代用したこともありました。


 「定型的ではないアブノーマルな照射は案外、技師とかNsから難色を示されることが多いです!」とのご意見をくださった先生がいました。「難色」は施設によって、コメディカルによって、異なります。(医局人事で)いろいろな施設を異動してきた私も、施設間格差、スタッフさん格差など、嫌というほど経験させていただきました。

 緩和照射は、放射線腫瘍医やコメディカルのモチベーション(やる気)で、適応(可否)が大きく変わります。なんでもやればいいと言ってるわけではないですけど、本当に適否が違います。標準治療の根治照射より、はるかに。


 前回のブログでも書きましたが、緩和照射において照射精度がどうだとか線量分布がどうだとかという議論はいささかピントがずれているように思います。これも同じことをコメントしてくださった先生がいました。緩和照射にはそれらが不要、と言っているわけでは決してありません。臨床的な総合判断として、何を優先すべきかが大事だと思うのです。救急医療のトリアージに相通じる部分でしょうか?

 例えば骨転移の緩和照射の多くの臨床試験論文でもあるように、4Gy単回照射だって効く方はいるのです(8Gyのほうが確率が良い結果だから標準として採用しているだけのこと)。もし8Gyでホットスポット130%がどうしても気になるなら、7Gy(か6.5Gy?)に少し減らせばいいんだし。例えば安静が保持しにくい方にミリ単位を求めたって、長い治療時間にセンチ単位で動いちゃうんだから、精度のこだわり「過ぎ」は医療者の自己満足に陥りかねません。全体像を俯瞰して、どう選択するか。場合によっては(ご同意上での)勇気と覚悟の超ざっくり治療もありだと思います。先日の懇話会でも、各施設のそういう試行錯誤や工夫を教えてほしかった。各施設から「この方をどうしたら?」という患者ファーストのお話が聞きたかった。でも、(追加要望だったから)時間はなかったかな…残念

 


 と、そんな感じで30年近く放射線腫瘍医をしてきたものですから、患者さんが「立ったまま」「座ったまま」放射線治療の準備や照射ができると、緩和照射はすごく助かるのにと、ずーーーーっと思い続けていました。CTもMRIもPETCTも放射線治療も、基本的に横にならないとできない装置ばかりだから。ほんと、患者さんファーストじゃない。


 が、しかし!ついに、立ったままのCTがキャノンメディカルさんから世界で初めて、まもなく販売されるというではありませんか。日刊工業新聞(2022/4/18記事)「キヤノンメディカル、立位・座位CT投入 世界初、来年めど」

 前置きがすごく長くなりましたが、これはきっと緩和照射の準備にも使えます!治療計画装置などとの連携やデータ登録などが必要な部分はやっぱりあるでしょうが、無理に横にならなくても放射線治療の準備はきっとできます!患者さんファーストです!


 あとは実際の照射をどうするか。患者さんの状態が許容できそうなら、治療装置寝台を使わず立ったまま、あるいは落下の危険があるので現実的ではないかもしれませんが治療装置寝台に腰掛けながら(あるいは、かなりの工夫をこらして車いすに座ったまま?)照合画像を撮影して、だいたいOKなら緩和照射、なんてことも。

 実は、すごく昔の装置は、立ったり座ったりしての照射できるものがあったのです。以前、別のブログ(驚愕の放射線治療:2つの逸話)でご紹介したことがありました。今はそんな骨董品のような装置は病院にはないだろうし、あったとしても医療被ばく装置としてはおそらく使えないでしょう。


 立位CTのような、立ったまま照射できる治療装置が新しく開発されれば、もっと便利なのですが…まだ、その気配はなさそうです。

 既存の装置だとしたら…サイバーナイフを活用できないものだろうか?今のバージョンではやっぱり制約が多くて無理だろうけど、ロボットアームは使えそうです。照射時間は汎用装置より少々長いだろうけど、安楽な体位で治療できるし。


 時代は変わりつつあります。





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